国道44号線を厚岸から浜中へ向かう途中、
厚岸湖へそそぐ大別川を渡る。
湿原をゆるやかに流れる川を見て、一瞬目を疑った。
「すごい。」
・・・こんな川の景色は、いまでは見たことが無い。
一瞬の風景は目に焼きつき、
帰路ふたたび立ち寄って、川の流れを写真に収めようと思った。
何がスゴイのか。
人工的なものがまったく無く、
それは太古から脈々と続く、原生の姿だと思ったから、
スゴイのである。
山のてっぺんまで、百名山登山とかで俗化している今日、
こんな風景は、ニッポンじゅう、どんな山奥へいっても見かけないであろう。
それが国道沿いに、ヒョッコリ顔を覗かせているのだ。
そこは、「別寒辺牛湿原」と言われる、
ラムサール条約登録湿地なのであった。
それで翌朝帰り道、
近くにある水鳥観察センターとかいう立派な建物に立ち寄ると、
職員の方は、
――ああ、あそこですか。ごくごく普通の湿原風景ですね。
なんて言うものだから、こちらは、ちょっと拍子抜けしたのだが、
そこで仕事をしたり、行き来する人々からすれば、
それはたしかに日常の中の、ごくごく普通の風景なのであろう。
だから次に、その発言こそ、真っ当と思うことが、
ラムサール条約の基本を知る事のようにも感じられた。
いまでは、日本中立派な道路網が整備されて、
簡単に何処へでも行けてしまう。
それで、秘境への道も、立派なトンネルで通過して、
むしろ「秘境」は、元の鞘へ戻ってゆくやに見えるのは好ましい事だと思う。
地図で「別寒辺牛湿原」の位置を確認すれば、
上流は広大な矢臼別演習場があり、
道路と放牧地以外ほぼ何も無い30キロ四方に囲まれている。
・・・武田泰淳の小説のタイトルにもあるが、
「森と湖のまつり」
そんな、北海道道東の原生の姿を想像しながら、
このあたりが、何もないそのままに、
あるがままに放置される(保全される)ことを祈るばかりだ。
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