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土煙を立てて特急スーパーおおぞらが通過する。
根室本線稲士別駅。
ブログを書き始めた頃から、
幕別の丘の美しい眺めにすっかり魅せられていたが、
丘の一角の「碑文」には、
アイヌ語の「イナウ・ウシ・ベツ=木幣の川」から転訛して、
「稲志別」と呼ばれていたこの辺りが、
開拓の鍬がはいり「金毘羅山」と呼ばれ、
そして今は「豊岡」と呼ばれている。と記されていたのが気になっていた。
それで思い立ってクルマで30分の、
丘の麓の稲士別駅へはじめて行ってみた。
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あかるい朝の光の中で、
まぶしそうに近所のおばさんが列車を待っている。
――おはようございます。お出かけですか。
――はい、札内まで。どちらからですか。遠くからいらしたのですか。
――いやあ、市内からです。ちょっと駅を見に来ました。
「どちらから」という、おばさんのひと言で、
こんな駅にも、遠方から、はるばる訪ねる人のいる事を知った。
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いまではネットを通じて、鉄道の旅がとても人気なのだ。
こういうマイナーな駅を「秘境駅」と崇めて、
巡礼のような旅をする人々がいるのだ。
――知らなかったなそんな事。
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雨風をしのぐ、ホーム脇の小屋には、
「旅のメモリー・稲士別駅」
というノートが置かれていた。
・・・静岡から家出をして来た。とか、
・・・大阪からようやく辿り着いた。とか記されている。
それも1月とか2月の極寒の北海道へ、ご苦労さんだ。
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こうして、若者はきょうも、
自分の居場所探しの旅へ出るのだろう。
いい場所が見つかるといいね、と思う。
・・・いつの間にか、
中高年オヤジとなってしまった、わたしの居場所。
それは窓際。夜はときどきBARカウンター。
そして深夜はパソコンの前ってか・・・。
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鉄道の旅が、航空機や自動車の旅と違って、
趣きの深いものになるのは、
その「鉄路」と「タイムテーブル」に縛られるからであろう。
たとえば飛行機なら半日で飛び越えるユーラシア大陸一面に、
敷設された枕木を想っただけでも、畏怖の念を覚える。
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一度訪ねただけの旅であっても、
鉄道の旅なら、
いつか、その足跡をふたたび辿って、
思い出の中へ帰ることが出来る。
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ひとは心の奥底で変わらない何かを求めて、
何かを確信したくて、さまよい続ける。
そして若者は荒野をめざす。
若者の彷徨は、中高年の徘徊とは、まるで純度が違う。
だから、うらやましい。
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――朝6時に釧路駅を出発した普通列車は、
8時46分。近所のおばさんを乗せて稲士別駅を出た。
この列車は、帯広から先は快速「狩勝」となって、
あの残雪の日高山脈を越えて、
遥かむこうの滝川駅へ12時35分に到着する。
この列車がいまでは、
日本で一番長い距離を走る普通列車なのだと後で知った。
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