知らない街の居酒屋・スナックで、
ジョッキ・ジョッキ・焼酎・焼酎・ウイスキー・水割り・水割り・・・、
と宴会は続いたのだが、喧騒からひとり離れて街をふらついていると、
繁華街の一角で、控えめに主張しているBARの「扉」が目に留まった。
そして次の瞬間。
そのカジュアルな雰囲気のドアにつられるように、店の中へ迷い込んでいた。
――お邪魔していいですか。
――いらっしゃいませ。
カウンター両サイドの先客は、それぞれカクテルと向き合っている。
ガランと中ほどが空いているので、バーテンダーさんの前に席を取った。
――メニューは無いですが・・・いまこれが有ります。
ぐるりと店内に目をやる初見の客に、お店の方はキンカンを見せてくれた。
林立するボトルの中で、キンカンが鮮やかであった。
――美味しそうですね。じゃあ、それで・・・。
店の明かりに目が馴染んで来ると、
バックバーのボトルを追いかけるように、目は自分の酒を探し始めた。
ところがバーボンとかリカーばかりで、見慣れたモルトは見当たらない。
場違いな店へ来てしまったのかもしれない、という気持ちもしてきた。
それに店の雰囲気も、カジュアルなのはいいとしても・・・、
カウンターからして、言い方は悪いが、これはラーメン店のノリだぜ・・・。
なんて一瞬アタマに過ぎる、オヤジくさいイチャモンを遮る様に、
目の前のバーテンダーさんは、まるでライブのように、
キンカンを鮮やかに潰して、リカーと瞬時にコラボする。
グラスのなかで香り立つキンカン。
――フレッシュで素直な香り、上品なバランス・・・見事です。
とココロでは思っていたが、いっぽうで、
宴会酒に馴染んだカラダが、あれ、あれ、戸惑って、急に酔いが廻ってきた。
酒を飲んだ実感がないのに、どうしてこうも不当に、酔わなくてはならないのか。
そんな感覚に沈みかけて、たっぷりなピスタチオに手をやると、
ひさしぶりのイラン産だ。しかも醤油でローストしてある。
小皿の中で、みずみずしく繊細なホワイトアスパラも、
水菜とペッパーのカラミ具合が絶妙なのだ・・・。
やがて出てきたジャーキーも、南イタリア風サラミも、
カシスのドライと交互に味わうと、おいしい。
むむ、ちょっとマテよ。この店は何処かが違うぜ・・・。
さらにだらだらとしている酔っ払いのわたしに、
××さんちの「牛乳」はどうでしょうかときたものだ。
それで、お口直しに、ひとくちの「牛乳」を。これもまた上質。
――よし、飲みなおします。
とおかげさまで、完全にリフレッシュ宣言。
――フツウのモルトでいいですから、何か二三本の中から選ばせてください。
・・・と云うと、ぶっきらぼうに並んだ、
バックバーのボトルの影から引っ張り出されたのは、
ケルテイック・クロスのラフロイグと、やはりボトラーズ物のリベット35年。
――うーーん。いきなりシブイボトルだけれど、もうすこしフツウでいいのですが。
そう伝えると、出てきたボトルがモーレンジアスター57.1。
――そうそう、これが走ってホシーノ。
金柑カクテルのその後は、アイラ系でも、シェリー系でもなく、
やはりホワイトオークがいいのです。・・・そのようにカラダが要求しているのです。
モーレンジカスクの、柔らかいとろりとした味わいとフレーバーを愉しみながら、
いつしか充分に満足して、幸せな時間の中にいた。
・・・出会い頭の客の気持ちに、「ツッ」と言えば「カッ」と対応する、
若きバーテンダー女史の才能に、まったく感心してしまった。
#■JOURNY