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■北の街のBARにて 



知らない街の居酒屋・スナックで、
ジョッキ・ジョッキ・焼酎・焼酎・ウイスキー・水割り・水割り・・・、
と宴会は続いたのだが、喧騒からひとり離れて街をふらついていると、
繁華街の一角で、控えめに主張しているBARの「扉」が目に留まった。

そして次の瞬間。
そのカジュアルな雰囲気のドアにつられるように、店の中へ迷い込んでいた。
――お邪魔していいですか。
――いらっしゃいませ。
カウンター両サイドの先客は、それぞれカクテルと向き合っている。
ガランと中ほどが空いているので、バーテンダーさんの前に席を取った。
――メニューは無いですが・・・いまこれが有ります。
ぐるりと店内に目をやる初見の客に、お店の方はキンカンを見せてくれた。
林立するボトルの中で、キンカンが鮮やかであった。
――美味しそうですね。じゃあ、それで・・・。

店の明かりに目が馴染んで来ると、
バックバーのボトルを追いかけるように、目は自分の酒を探し始めた。
ところがバーボンとかリカーばかりで、見慣れたモルトは見当たらない。
場違いな店へ来てしまったのかもしれない、という気持ちもしてきた。
それに店の雰囲気も、カジュアルなのはいいとしても・・・、
カウンターからして、言い方は悪いが、これはラーメン店のノリだぜ・・・。
なんて一瞬アタマに過ぎる、オヤジくさいイチャモンを遮る様に、
目の前のバーテンダーさんは、まるでライブのように、
キンカンを鮮やかに潰して、リカーと瞬時にコラボする。

グラスのなかで香り立つキンカン。
――フレッシュで素直な香り、上品なバランス・・・見事です。
とココロでは思っていたが、いっぽうで、
宴会酒に馴染んだカラダが、あれ、あれ、戸惑って、急に酔いが廻ってきた。
酒を飲んだ実感がないのに、どうしてこうも不当に、酔わなくてはならないのか。

そんな感覚に沈みかけて、たっぷりなピスタチオに手をやると、
ひさしぶりのイラン産だ。しかも醤油でローストしてある。
小皿の中で、みずみずしく繊細なホワイトアスパラも、
水菜とペッパーのカラミ具合が絶妙なのだ・・・。

やがて出てきたジャーキーも、南イタリア風サラミも、
カシスのドライと交互に味わうと、おいしい。
むむ、ちょっとマテよ。この店は何処かが違うぜ・・・。
さらにだらだらとしている酔っ払いのわたしに、
××さんちの「牛乳」はどうでしょうかときたものだ。
それで、お口直しに、ひとくちの「牛乳」を。これもまた上質。

――よし、飲みなおします。
とおかげさまで、完全にリフレッシュ宣言。
――フツウのモルトでいいですから、何か二三本の中から選ばせてください。
・・・と云うと、ぶっきらぼうに並んだ、
バックバーのボトルの影から引っ張り出されたのは、
ケルテイック・クロスのラフロイグと、やはりボトラーズ物のリベット35年。
――うーーん。いきなりシブイボトルだけれど、もうすこしフツウでいいのですが。
そう伝えると、出てきたボトルがモーレンジアスター57.1。
――そうそう、これが走ってホシーノ。

金柑カクテルのその後は、アイラ系でも、シェリー系でもなく、
やはりホワイトオークがいいのです。・・・そのようにカラダが要求しているのです。

モーレンジカスクの、柔らかいとろりとした味わいとフレーバーを愉しみながら、
いつしか充分に満足して、幸せな時間の中にいた。

・・・出会い頭の客の気持ちに、「ツッ」と言えば「カッ」と対応する、
若きバーテンダー女史の才能に、まったく感心してしまった。

#■JOURNY

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