2000年6月、恵比寿にバー「エピローグ」が開店した。幅のある一枚板のカウンターに、整然と並ぶグラスやボトルが美しいバックバー。喧騒から逃れるように歩を進め、客人たちは一日の締め括りに此処を選んだ。
店が閉まると、今度は店主の“エピローグ”が始まる。先の開店から数年の間、前西寿美夫さんは南青山へ通い詰めた。現在も名スコティッシュ・パブとして多くの飲み手に慕われる「ヘルムズデール」である。当初は珍しいボトルを見つけては飲んでいたが、やがてラフロイグ10年ばかり飲むようになっていた。
「ヘルムズデールのスニフターにはメモリが付いていて、通常のショットなら“1”まで注ぎますが、僕の場合は“4”まで。それをいつも3~4杯飲んでいたので、ボトル半分以上は空けていたことになりますね。そのうち、店主の村澤さんがラフロイグのリッター瓶をカウンターのワンショットメジャーにぶら下げて、僕の名刺を貼ったほどです。毎日馬鹿みたいに飲んでいる奴がいるんだよ、って」
空が白み始める4時頃には同業者でカウンターが埋まり、立って飲む者もいた。ラフロイグは1974年が一番旨いが、日常的に飲むものではない。前西さんにとって、此処とラフロイグ10年は生活の一部だった。
およそ15年の時が流れ、2016年4月にバー「エピローグ」はパブへと姿を変えた。初日に駆けつけたのは、あのとき南青山で顔を合わせていた仲間たち。酒も店も、毎日愉しめるほうがいい。パブ「エピローグ」もきっと、誰かの日常になる。
前西寿美夫氏
PUBLIC HOUSE EPILOGUE
東京都渋谷区恵比寿1-6-3 ゼネラルビル恵比寿イーストB1F
03-3441-3588
17:00~05:00
無休
絵:佐藤英行 文:いしかわあさこ
#思い出のボトル