1989年4月1日、酒税法が改正された。それまでの従量税と従価税が廃止され、アルコール度数によって税率が定められるようになると、今では懐かしい「ウイスキー特級」などの表示が巷から消えていった。安価にはなったが、同時に消費税が導入されたため値付けに困惑した店も多かっただろう。赤坂のレストランで料理人をしていた橋脇和彦さんが、地元の鶴見にバーを開いたのはそんな最中だった。
シングルモルトが簡単に入手できず、ウイスキーに関する資料を探すのも大変な時代。国内の文献がなく、古本屋で海外の本を見つけては辞書を片手に読んだ。現在は名著として知られるマイケル・ジャクソン著『モルトウイスキー・コンパニオン』も、まだ訳されていなかった。
それでもなんとか品を揃え、開店翌年には常連客5~6名を集めて勉強会を開催。初回のラインアップは「ザ・グレンリベット12年 赤玉」「タリスカー10年」そして銀座三美から購入した、ずんぐりした黒いボトルだ。スコットランドにスペイサイドという区分がなく、ハイランドとして一括りされていた頃。マッカランやグレンリベットと同じエリアのシングルモルトなら、きっと華やかで柔らかい味わいに違いない……。ところが思ったよりスモーキーで、美味しかった。それがモートラックだった。
月に一度開催されるようになった勉強会は、やがて国内の蒸留所見学ツアーにまで発展した。毎年バスをチャーターして、35名前後で向かう。その様子を嬉しそうに話す橋脇さんのウイスキーに対する愛情は、今も変わらない。そう、「シングルモルトって何?」という飲み手ばかりだったあの頃と。
橋脇和彦氏
Early American
神奈川県横浜市鶴見区鶴見中央1-18-2
045-502-8333
17:30~01:30
日曜休み
絵:佐藤英行 文:いしかわあさこ
#思い出のボトル