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ジャックダニエル/「Cafe Bar ELIXIR」下平薫さん


 

「なんだろう、この香りは……。不思議な味わいで、ちっとも美味しくない。こんなに不味いものがあるのか」

二十歳の頃、下平薫さんがはじめてウイスキーを口にしたときの感想だ。友人がコンビニで買った黒いボトルを手に現れ、自宅でロックにして飲んだ。ところがひと口しか飲めず、処理に困って知り合いへ譲ることに。そして暫く、ウイスキーを口にしなかった。

数年後、下平さんは新宿の「TOPS BAR2」でバーテンダーとして働き始める。ウイスキーを飲んだことがあるかという客の質問にほとんどないと答えると、「グレンリベット18年」を勧められた。ストレートで試すと、数年前とは全く異なる感触。甘く華やかな香りで、攻撃するような感じがない。やっと、ウイスキーに迎え入れられたような気がした。

それから徐々に嗜むようになり、その後新宿の「HERMIT east」で共に汗を流した粕家正隆さんと2009年に「Cafe Bar ELIXIR」をオープン。“HERMIT(錬金術師)”が生み出した“ELIXIR(万能薬)”である。気付けばウイスキーにのめり込み、ウイスキーエキスパート(※)を取得。勉強中に覚えたスコットランド最古の麦品種といわれる「ベア」を使用した「アラン オークニーベア」が発売されると、どんな味か飲まねばと店に仕入れるまでになった。

当初は、ここまで好きになるとは思わなかったウイスキー。あの黒いボトルを目にすると、懐かしさと申し訳なさが込み上げる。

「こんなに美味しいウイスキーだったのにね」

今ならその香りも味わいも、しっかりと愉しめる。
 
※ウイスキー文化研究所(旧スコッチ文化研究所)による資格認定制度。昨年、下平さんは一段階上のウイスキープロフェッショナルに合格している。

下平薫氏
Cafe Bar ELIXIR
東京都新宿区西新宿7-16-1 コンシェルジェ石原B1F
03-3365-1488
19:00~02:00(日・祝~01:00)
不定休

絵:佐藤英行 文:いしかわあさこ



 

#思い出のボトル

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