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ブナハーブン1997 アトマイザー16 Akari/「whisky house Vision」小林渉さん

Akari”の文字と共に「仙台 東京」と書かれたボトルは、次々に東京から仙台のバーへと送られた。2011年3月11日に発生した東日本大震災の復興支援として、都内に10店舗を展開するATCF(アズザクロウフライ)が始めたプロジェクトで、各店舗で1本売れる毎に1本を仙台へ送る仕組みだ(※)。東北のバーの灯りを消したくない、という気勢を感じるラベルである。

前年の秋にATCFへ入社した小林渉さんは、その半年後に起こった災害に心を痛め、ひとりでも多くの客に飲んでもらえるよう懸命に努めた。同社が不定期にリリースするオリジナルボトル「アトマイザー」シリーズの第16弾で、中身はブナハーブン。スコットランド・アイラ島のウイスキーとしては軽いタイプのものを生産する蒸留所だが、小林さんが「強烈なピートと土の香り、塩気や燻製香がある」と話すように、やや重いテイストに仕上がっている。

客人の中には、単身赴任中に家族が被災し、津波で家が流された人もいた。「こうして応援してくれて、嬉しいよ」とボトルを眺めながら、自らも飲んでいる。帰る場所を失い、大切な家族を近くで守ることもできない。想像もつかないほどの大きな不安を抱えながら、このカウンターに座っている。被災者とその家族の気持ちに少しでも寄り添いたいと思ったのは、小林さんだけではなかっただろう。全社を挙げての取り組みは、早くも完売という結果になった。

仙台から遠く離れたバーが、バーテンダーができることは何か。自分たちにできることを、精一杯考え行動するしかない。それはカウンター越しに、多くの人の心を動かした。
 
※現在、プロジェクトは終了。

小林渉氏
whisky house Vision
東京都武蔵野市吉祥寺本町1-11-8 耶馬ビルB1F
0422-20-2023
18:00~02:00(日・祝~00:00)
無休

絵:佐藤英行 文:いしかわあさこ

 

#思い出のボトル

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