鮮やかな翡翠色が目を引くバックバーには、ボトルではなく食器が並んでいる。アメリカ・アンカーホッキング社の耐熱ガラスブランド「ファイヤーキング」の皿やマグカップなどで、オーナーの阿部俊英さんがコレクションしたものだ。ただ飾ってあるのではなく、アジアンフードやコーヒーなどがこれらで供される。壁にはアーティストによる写真や絵画が月替わりで掛けられ、2001年に開催した映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の写真展をきっかけに、モヒートが名物となった。昼はハワイアン、夜はジャズが流れ、開放感のある店内で寛ぐ客人の姿が彼方此方に見受けられる。
「だいぶ前に、ゴードンのオールドボトルを見つけて買いました。裏ラベルにシュウェップスの写真があって、なんだか懐かしくて。ほとんど自分で飲みましたが、空になってもなんとなく取っておいたんですよね」
ゴードンは世界で初めてジントニックを生んだブランドといわれ、トニックウォーターはシュウェップスを推奨している。このボトルが流通していた1970~80年代、阿部さんはロンドンで幼少期を過ごしていた。最近になって、何故自分がこのような店を出したのかと考えた時、現地のパブで楽しんだ記憶がボトルと共に蘇ってきた。あの頃見て感じたような、近隣の老若男女が集まる社交場を目指したい。その思いが、代々木上原駅前に具現された。
ふとカウンターに目をやると、男の子が椅子に腰掛けてジュースを飲んでいる。此処にも家族連れで来店する客が多いらしい。阿部さんの願いは、地元の人々に通じているようだ。
Fireking cafe
東京都渋谷区上原1-30-8
03-3469-7911
18:00~02:00(ランチタイム11:30~18:00)
無休
絵:佐藤英行 文:いしかわあさこ
#思い出のボトル