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秩父蒸留所(工場見学編)

日曜日にまたまた秩父蒸留所へ行ってきました。今回は白楽のバーテンダーさんに連れて行ってもらう形で見学が叶いました。今回はバーテンダーさん含めて8名。少人数での見学です。

池袋11:30発のNRAちちぶ号で西武秩父へ向かいました。NRAに実際乗ってみて驚愕。なんと床下から聞こえてくる轟音はどう考えても古くさい抵抗制御。西武は堤氏が鉄道事業に興味が無く、鉄道事業の設備投資が他の電鉄に比べて遅れがちだというのは知っていましたが。いまだにそうなんでしょうかねぇ?そうえいば西武って一般車でもVVVFインバータ車の比率がまだまだ少ない気がしますね。


西武秩父駅からはタクシーで20分程度で秩父蒸留所へ。蒸留所のランドマークと言えるキルン棟が目に付きます。と、そこにイチローさんこと、肥土伊知朗さん本人が。これからイチローさんの解説付きで蒸留所見学です。いつもだったらマガジンライブやウィスキーフェスティバルなんかで大勢を前に講義をしているイチローさんですが、今回はたった8人で独占!なんと贅沢なことか!!


ご挨拶の後、さっそく製造順に工場の見学をさせていただきました。まずはモルトを粉砕するミルの見学。秩父蒸留所では現在、スコットランド、イングランド、ドイツなどのモルトスターからモルトを買っているそうです。当たり前ですが、ウィスキーは大麦という農産物から出来ています。ですから収穫される場所によって出来不出来が異なってくるのは当然のこと。そのリスクを分散する上でいろいろな場所から購入するというのも至極当然のことですね。


秩父蒸留所では夏のメンテナンスシーズン直前にピートを炊き込んだモルトでウィスキーを仕込むそうです。右の写真奥の瓶詰めされたモルトがそのヘビリーピーテッドモルトです。今年のフェノール値はなんと59,6ppm!!ラフロイグやアードベッグどころの騒ぎじゃないっす。超がつくほどのヘビリーピート。実際のピーテッドモルトを食べさせてもらいましたが、さすがに凄いフェノールを感じました。ちなみにピート麦芽で仕込んだあとに各設備を洗浄・メンテナンスしても、その直後に仕込んだニューポットはピート香がしてしまうそうです。ちょっと前にカリラのノンピートなんてものがでてましたが、飲んでみたらどう考えてもノンピートじゃねぇだろ的な味だったのが思い出されます。あれだけピート炊いた施設でノンピートをやってもピーティになってしまうのはなんとなく納得ですね。また、ハスク、グリッツ、フラワーの比率は基本的に2:7:1といういわゆる”教科書通り”らしいのですが、季節や気温によって同じ挽き方でも比率が微妙に変わってくるそうです。そのため、サンプルを吟味しながら挽き方をその都度調整するそうです。本当にウィスキー作りって自然を相手にしてるんだなと感じました。


次に見学したのが糖化層です。ここでは粉砕麦芽にお湯を入れて麦汁を取り出すわけですが、スパージング毎にお湯の温度を上げていくそうです。それくらいのことは知識としては知っていたのですが、その理由が異なる温度のお湯を入れる事により、桶の中で異なる温度帯のお湯の層ができ、下の層のお湯を効率よく押し出す効果があるということ。これは知らなかったですねぇ。目から鱗が落ちました。やっぱり物事には理由があるものなんですね。


右の写真は麦汁を撮りだした後の絞りかす(ドラフ)です。家畜のえさとして出荷するそうです。秩父蒸留所は酒造免許の他に家畜のえさの生産免許まで持っているそうです。持ってないと餌として出荷できない(単なる産業廃棄物になってしまう)のだそうです。こんなもの二束三文だと思いきや、最近は大麦を全く使わない第3のビールなんかが好調で、ビール会社が出す大麦の絞りかすが激減しているそうです。そのため秩父蒸留所から出る大手から比べたら少ないであろうドラフも、いい値段で買い取ってくれるんだそうです。ちなみに食べてみましたが何の味もしませんでした。もし甘味があったら麦汁の取り出しに失敗したことを意味しますから、味がなくて当然と言えば当然ですね。


次が発酵槽、ウォッシュバックです。前回伺ったときよりも2基増えていました。秩父の発酵槽と言えば世界的にも珍しいミズナラの発酵槽で有名ですね。製樽メーカーが横浜なのは何となく身近さを感じました。実は空港や高層ビルなんかの受水槽は木で出来ていることが多いそうで、羽田や成田なんかの受水槽も木でできているそうです。


イチローさんに脚立の足を支えてもらって中を見させてもらいました。発酵して12時間のもろみです。激しく泡を吹いており、スイッチャー(泡切り機)で泡を切っていました。スイッチャーを入れ忘れると次の日に泡が桶から漏れてしまっているそうです。この時点でウィスキーのフルーティーさを十分に感じることができます。本当に発酵って不思議です。


ポットスティルは初留、再留ともに1器ずつ。両方とも間接加熱方式です。写真左が初溜、右が再溜です。この日は午前中に蒸留を終えたところだそうです。メーカーは当然のことながら(?)スコットランドのフォーサイス製。ストレートヘッドでネックが下向きです。つまり、酒質の重いウィスキーが出来るわけです。しかし、コンデンサーの温度を変えることにより酒質をコントロール出来るんだそうです。コンデンサーがシェルアンドチューブ方式なのでコンデンサーの水温コントロールが比較的簡単にできそうですね。それでも水温の違いで酒質に影響がでるというのは凄い話ですね。


最後にウェアハウス。伝統的なダンネージの3段積み。(一部4段)増えたな~!!という印象でしたね。あと1年程度で一杯になってしまうそうで、次のウェアハウスの土地なんかもめどが立っているそうです。バレル、ホグズヘッド、パンチョン、シェリーバット、ワイン樽、ブランデー樽、ミズナラ樽、クオーターカスク、秩父蒸留所のオリジナルサイズの樽と何でもございます状態でした。しかしこれでも樽数は1000丁ちょいと言っていたので、まだまだレパートリーが必要なのでしょうね。できたての頃のアラン蒸留所みたいですね。しかし、どこの蒸留所のウェアハウスもキリっとした空気に包まれていて身が引き締まる思いですね。本当にウェアハウスのどこかに天使が潜んでいるという気にもなってきます。秩父は1日の寒暖差が激しく、樽がよく呼吸するそうです。


ミズナラ樽のコーナーに面白いものが。4時の方向に黒ずんだ物体がありますが、これは実は液漏れしているミズナラ樽だそうです。液漏れ部分をさわって舐めてみてとイチロー氏に促されたのでやってみると・・・お、お、おいすぃ~~!!あの伽羅の甘みが手にべったり。ずっとくんくん臭いを嗅いでました。


もう一つ、珍しい樽を。クリアデラと書いてあります。シェリー好きやウィスキー好きで派生的にシェリーを勉強したことのある方は分かると思います。そう、シェリー樽でもソレラシステムの樽です。ソレラシステムの樽なんて始めて見ました。

また、このほかにもバーボン樽は比較的豊富にあると思いきや、あまりにもスコッチの人気が高くて、最近では新樽と中古のバーボン樽の価格差がほとんど無いとのこと。でも大手は今さら新樽を使うわけにも行かないそうで、新樽と同じ値段で中古のバーボン樽を買っている状況なんだとか。世界的なモルト人気は色々なところに影響が出ているみたいですね。そりゃシェリー樽なんて高いわけですよね。ミズナラに至っては1樽ウン十万だそうです。。。


というわけで、工場見学は一通り終わりましたが、こんなに”頭がお腹いっぱい”になる工場見学も珍しい。どの蒸留所よりも確実に知識というお土産が増えますね。しかもイチローさん本人の解説付きで。夢のようなひとときでした。 さて、これから試飲なのですが、試飲編は別のエントリーにしたいと思います。もう手が痛いわ・・・え?読む方も辛いって?そりゃそうですよね。まぁそれだけ興奮したと思っていただければ幸いです。

#whisky and whiskey

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