CLUBのBARへ深夜迷い込むと、
ボイストレーニングへ通っているあいぽんさんが、駆け込んできた。
――ああ寒い、凍えそう。 入れ替わるように、
――ぼちぼち時間じゃね。帰るとするか。と席を立つと、
――トゥルールルル。トゥルールルル。バイヤーさん、この曲何でしたっけ。
と、あいぽんさんが聞いて来た。
――うん、聞き覚えのあるシャンソンのメロディ。
しかし、唐突に言われても酔っていて、曲目がすぐに出て来ない。
――うん。帰り道に思い出してメールします。
と言ってドアを出た瞬間「さ・く・ら・ん・ぼ」だと思い出した。
そういえば、昨夜もこの時間に、流していたよな。
今夜は、ちょっと雰囲気を変えて、
ステファン・グラッペリとミシェル・ルグランのグランドオーケストラで確認しよう。
「桜んぼの実る頃」ライナーノートによれば、
・・・「1871年5月26日、日曜日。
フォンテーヌ・オ・ロア通りの看護婦、勇敢なる市民ルイーズに」この曲は捧げた。
パリ・コミューンへのこうした配慮は、この牧歌を反抗の賛歌に変えることとなる。
アントワーヌ・ルナール(作曲)の音楽は、
その分野では独学であるだけにより一層、リズムの中断や堂々とした沈黙、
セルジュ・ゲンズブールも拒むことはなかった
と思われる奇抜な詩句の句切りとともに、
歌詞にある種の革命的なディメンションを吹き込んでいる。
この甘いシャンソンは、その曲の背景で、
このように歴史的なパリ・コミューンの悲痛な出来事と、深く結びついているのだ。
1871年3月26日。革命政府がパリ・コミューンを樹立。
3月28日、パリ市民の選挙で、コミューンの成立が宣言される。
以後5月20までパリを統治するが、
最終的に「血の一週間」と呼ばれる戦闘により、
5月28日パリは鎮圧され、コミューン兵士は捕らえられ、全員処刑された。
パリ・コミューンはこうして、72日間の短命に終わったのだ。
一年のうち、さくらんぼの実る頃も、またじつに短い・・・。
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