ここはイタリア、エミリオロマーナ州ピアチェンツァのリストランテ。
美味しい食事を堪能したあとで、
どうしても、地下のキャンティーナ=CANTINAを覗きたくなった。
そして、シェフのフィリッポさんに案内していただいて・・・、
その奥行きに、ただただ呆然と立ち尽くした。
これは倉庫というより、まるでワインの図書館だ。
いや、ワインだけではない。棚の上段には世界のリカーズ。
シングルモルトもズラリと並ぶ。
――こんなに在庫があって、誰が飲むのであろうか・・・。
とか感じてしまう、わたしの「食」は、あまりにも貧しい。
世間では「グルメ」とか氾濫しているのに、
ニッポンの「食」を取巻く空間は、
近頃、急速に貧しくなっていると実感している。
なにも、イタリアかぶれするのではないが、
「食」を通して、ニッポンの姿が、外から見えてくる。
そういえば、イタリアの、地方の郊外の、
ほんの一部を車に揺られてなぞっただけで、
何処までも続く葡萄畑に、
――地球はワインの星だ。なんて錯覚してしまう。
書店に氾濫する、ワインガイドにしても、
一つの州で電話帳のようにワイナリーはある。
そういう世間を垣間見れば、
ワインでもなんでも、
ブランド信仰というのは、じつに田舎臭い話に聞こえてくる。
・・・そのあと何年か経て、大阪で開かれた交流会で、
食後のスピーチに、その事を思い出して話した。
――ミラノのペッグのキャンティーナは日本でも有名ですが、
ピアチェンツアのリストランテのそれも、
ペッグと変わらない、とんでもないワイン蔵なのです・・・。
すると突然、会場の何処からか、
フィリッポさんが飛び出してきて、わたしに抱きついてきた。
――アナタハトモダチダ!
交流会のメンバーとして来日して、
彼はホテルの厨房で、この晩餐を指揮していたのだった。
その後、幾度か訪ねる度に、人を介して極上の生ハムの塊とか、
お土産に頂いたのであったが、
持ち帰れないので、そのまま現地の知人にあげる事となった。
それは、誠に残念な話なのだが、
美食の都の、とんでもなく旨い食材を、
まだまだ、味わっていないという、心残りと一緒に、
ときどき、イタリアの農村風景を思い出している。
日本でも、このリストランテで修業したシェフの店が、
何軒かあるようで、
地元の食材を生かして、どの店もすばらしいイタリアンのようだ。
――何時か、その店も訪ねてみたいものだ。
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