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■北炭滝之上発電所 



国道274号滝の上で、休憩のため公園のトイレに立ち寄ると、
新緑の向うに時代がかったレンガ造りの建物があった。

車からカメラを取り出して、建物へ近づくと作業の方がいたので、
――こんにちは。
   ・・・いい建物ですね。これは発電所ですか。と話かけた。
――大正時代からの建物です。
――そうですか。よく残っていましたね。ちょっと写真撮ってもいいですか。
――いいですよ。この発電所はまだ現役なのですよ。
――ええっ、それはスゴイ。すっかり過去の遺物と思って見ていました。
   それで、作業の方は、点検中なのだと判った。
――それではちょっと。お邪魔します。
   と立ち入り禁止の門の中に作業の方について入りこんだ。
――あのクルマ無ければもっと良く撮れるのになあ。
   なんて冗談を言いながら写真を撮った。
――そう言われても・・・、作業の方も苦笑いしていた。
――勝手言ってすみません。
   でも、発電所って中がどうなっているのか、見たいですね。
――う・・・・・・・ん。
   瞬時戸惑って、いいでしょう。上司らしき人の許可が出た。
――ありがとうございます。



作業の方について、中へ立ち入ると、
三階建て程ある空間が吹き抜けになっていたのは意外であった。
明るくきれいに整頓されている屋内には、
ピンク色の二基の発電機が設置されていた。
内部に塵ひとつないことが、「現役」というなによりの説得力だ。
――1号機は故障して動きませんが、2号機はいまも現役なのです。
――へえ、こうなっているのだ。
   窓越しの緑を映して、屋内は柔らかい光に包まれていた。
   それは大正時代に造られた、
   手仕事のガラスの為せる業だと瞬時に理解できた。



――わーー、あの窓のステンドグラス。
   あれも、撮らせてください。
――そうなのです。これが北炭のマークなのです。
   もう、このガラスは壊れたら取り替えるモノが無いのです。
――たしかに・・・。
   あかるい空を、柔らかく微妙な色彩に映し込んでいるのは、
   板ガラスが、鼈甲アメの表面のようになっているからだ。
   軒下に生える雑草もガラス越しの影絵のように見えている。
   それは、「大正ロマン」の世界との偶然の出会いなのであった。



――それでは、作業がありますから。
――どうも、お邪魔してすみません。貴重なものを見せて頂きました。
   ありがとうございました。



偶然見学する事の出来た、「北炭瀧之上發電所」。
帰ってネットで調べたら、
この施設が貴重な産業遺産であると知った。
普段は一般には見学出来ないので、
内部の写真もネットでは見かけない。

大正時代、戦前・戦後の昭和、そして平成と、
幾多の時代の荒波と風雪に耐えて、
いまここに在る、貴重な建物。

建物と施設を維持する人々に支えられて、
いまなお現役の発電所・・・。

――レンガの黒い油汚れは、戦時中空襲から発電所を守るために、
建物を黒く塗りつぶした、タールの跡だという。



発電所の水を取り入れる夕張川の千鳥ヶ滝の、
辺りいったいは竜仙境と呼ばれている。
この圧倒される断層の光景は、
まったくのシロウトながら、
滝ノ上層と呼ばれる北海道の地層、
太古北海道が地殻変動で一体化した名残が、
こうして川床の表面に露出した光景なのかと、
勝手に空想して眺めていた。

#■HOKKAIDO

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