第三章 Third Order サード・オーダー
アマレットの甘い香りが僕を落ち着かせた。
時計を見ると9時を回っていた。
「マスター、チェックおねがいします。」
「案ずるより生むが安しっていいますから」
マスターなりのエールだった。
「また、報告しに来ます。」
僕は笑顔で店を出た。寒さは本気モードで襲い掛かってきた感じだった。
タクシーに乗り込んだ。
「西麻布の交差点までお願いします」
車窓からは金曜日で賑う街が続いていた。
「まさくんは淋しくないの!」
付き合いだして2年を過ぎた頃だった。
会社の研修でアメリカに2週間行くという彼女がいきなり怒り出した。
「淋しいけど、研修だろ?それに二週間じゃないか」
「彼女が二週間もアメリカに行くっていうのに・・・」
彼女は僕の事をまさくんと呼ぶ時は甘えたい時、人前では正孝と呼ぶし、たまにはマーくんって呼ばれる事もあった。
「いつも、さやかには添乗行ってる時に淋しい思いさせてるから、ここは我慢しないとと思って・・・」
「わかればよろしい、でもその間に添乗でアメリカとか入れれないの?」
「ん~、LAやニューヨークなら可能性はあるけど、シリコンバレーは難しいかな」
彼女はちょっとふくれて見せた。やたらと今日は機嫌が悪い。
「毎日メールするよ。美味しいバーボンでもお土産に買ってきてよ」
「行ってる間に浮気は許さないからね」
「さやか嬢にぞっこんなのはわかってるでしょう」
少し機嫌が治った。
こういう彼女は愛しく思えるのは僕が大人になったからだろうか?
彼女の仕事は順調で最近は勢力的だった。見た目もキャリアウーマンを思わせるほどきりっとしてきていた。
少しずつ、外見は大人になっていく彼女。その反面、変わらない内面に僕は安堵していた。
そのころから添乗よりも内勤が多なり、彼女の方が海外出張などで居ない時が多くなった。
逢えない時間が愛育てる。何か歌の歌詞みたいだけど、本当にそうだった。
僕は彼女が大切で大切でしかたなかった。
#NH