第三章 Third Order サードオーダー
時間は8時半を回っていた。まだセリフが決まらなかった。
三杯目のオーダーを悩んでいた。
「アマレットでもいきますか?」
友達以上恋人未満か
マスターの後押しに乗った。
「ゴットマザーでお願いします。」
彼女と付き合いだしてから自分がより優しくなれた気がした。
元々、気性の荒いほうではない。妹がわがままだったせいもありそれに付き合ってきた僕は、
優しいだの面倒見がいいだの言われていた。
感情表現が下手は彼女には、よく振りまされた。
おっとりしている様だが以外にズバッと意見をいってみたり、やたらと甘えたりする時があった。
彼女は左利きだった。だからいつも座る位置は僕が右、彼女が左。
歩く時もそうだった。
左利きの当たり前の行動らしいが、実は支配欲の現われだと本で読んだ事があった。
「来週はロンドンだから、帰ったら連絡するよ」
「いいなぁ、ロンドンって。帰ってきたら例のバーに行こうね。それと、またツアー客に手をつけちゃダメだからね」
「そんな事はしないよ」
「うそだね、私に手つけたくせに」
いつものツアー前の会話だった。
銀座の「オープナー」のバーテンダーが独立した。
彼とは僕が飲みだした頃からの付き合いなのでオープンには顔を出すつもりだった。
場所は西麻布、店の名前は「エンドスケープ」
「ごめん、仕事片付かなくて遅くなりそうなの。先に行ってて」
「わかった、先に行ってるよ」
最近は彼女に待ちぼうけを食うことが多くなっていた。
彼女は大手のコンピューター会社のインストラクターをやっている。結構仕事は出来る様だった。
西麻布の交差点を少し行った所にそのバーはあった。
入り口には多くのお祝いの花が飾られていた。
「いらっしゃいませ。竹原さんようこそ」
店内は賑っていた。シックな家具が印象的だった。新店なのに何だか時を重ねたような雰囲気があった。
「いい店造ったね。おめでとう」
「ありがとうございます。席空けてますからどうぞ」
「ごめん、彼女ちょと遅れてくるから」
「さやかちゃん忙しい見たいですね」
リザーブと書かれた札が置かれた席に座った。
「では、ウエルカムシャンパンでも」
「ごめん、シャンパンは彼女が来てからで・・・」
彼女の好きなシャンパンを先に飲むと怒られる気がして、ジンリッキーを注文した。
一時間ほどして彼女が現れた。
「ごめんなさい。遅くなって」
「お疲れ様」
彼女は来て早々に仕事の愚痴を言い始めた。
僕はギムレットを注文した。
ひとしきり喋った事で気が納まったのだろうか?
「で、ロンドンはどうだったの?」
「さすがに寒かったよ。」
「エールいっぱい飲んできたんでしょう」
わがままと甘えたの両面が行き来する
「また、行きたいなぁ。」
10日ぶりに逢った彼女はそれでも何だか大人になっている気がした。
それからしばらくして、僕は渋谷に移動になったこともあり、「エンドスケープ」には来る事が多くなっていた。
#NH