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これもバッカスのお導きなのか?

  夏休みは海外で過ごすことが多い。今年は何処で過ごそうか、漠然と考え始めるのは、5月の連休が明けてからである。それから約3ケ月かけて、スケジュールを詰めてゆくのだ。旅行会社には飛行機のチケットだけ依頼し、宿やレンタカーなどは、インターネットでダイレクトに予約する。そのやり取りから、すでに旅は始まっている。
 ロンドン?パリ?ニューヨーク?・・・何処も違うなぁ。もっと、いまの気分にぴったりの処があるはず・・・。本棚にびっしりと詰め込んであるビジュアル本をひっくり返していると、「フジコサン。これしかない!」良さんはウインクして、表紙をわたしの目の前に突き出し、右手でぴったしかんかんのポーズをとった。・・・そうだった。直感とは、蓄積されたものが、必要な時に出てくるものだと、おばあちゃんが言っていた。心の奥に、澱のように蓄積してきた想いは、これであった。

 森瑶子さんの『望郷』を読んで「ニッカ」に興味を持ち、「竹鶴Bar」に出向き、「マイウヰスキーづくり体験」にも参加した。そして、村上春樹さんの『もし僕らのことばがウイスキーであったなら』を読んでは、こんな処に行って、こんなふうにすごしたいねぇ、なんて憧れを語り合っていたのだ。ほかの選択肢はあり得ない。
 わたしたちは、スコットランドに行くべきなのだ。

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1920.1.20 グレートハミルトン街にあるカールトン地区登記所で、ひっそりと署名による結婚。
日本人で初めて、モルト・ウヰスキーの製法を学ぶため、スコットランドに留学していた
竹鶴政孝と運命的に出会ったリタの生涯を描く。
肉親との愛を断ち切り、極東の日本で、男の夢を共に生きたリタの
心に棲む「望郷」とはなんだったのか?人間の孤独とはどういうことか?
著者初めての、長編伝記小説。

『望郷』  森瑶子・著 角川文庫

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アイラ島にはぜんぶで七つの蒸留所がある。僕はこの七つのシングル・モルト・ウィスキーを、
地元の小さなパブのカウンターで同時に飲み比べてみた。
グラスをずらりと一列に並べて、左から順番にひとつひとつテイスティングしてみたわけだ。
気持ちよく晴れた六月のある日の、午後の一時に。
これは、いうまでもないことかもしれないけれど、幸福な体験だった。
一生の間に何度もできることではない。

『もし僕らのことばがウイスキーであったなら』  村上春樹・著 新潮社

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