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類は友を呼ぶ

アイラ島、すべての蒸留所を巡り終えた達成感と寂寥感に包まれたわたしたちは、ロッホサイドホテルのバーで、とにもかくにも一杯やりたかった。
 センチメンタルな気分で車を止め、アンニュイな足取りでホテルの角を曲がると、そこには「結」にふさわしい登場人物との再会が用意されていた。そう、3日前にマッカラン蒸留所で出会い、ラフな再会の約束をして別れた齋藤夫妻であった。曇天は瞬く間に晴れあがり、懐かしさと安堵が込み上げてくる。わたしたちは何を言わずとも、再会の握手を交わすだけで旧知の仲のように間合いが取れ、心が呼応するのであった。早速、4人でロッホサイドホテルのバーカウンターへとなだれこむ。

 聞けば、齋藤夫妻もアイラ島のホテルを予約せずに到着し、ロッホサイドホテルに奇跡的に空いていたひと部屋に投宿したのだという。
(!!!)
わたしと良さんは、彼等に矢継ぎ早に質問を浴びせかけた。
「ドアを開けて、半歩進むとすぐにベッドの?」
「セミダブルベッドひとつだけの?」
「トランク広げられそうにない感じ?」
「このすぐ上の部屋?」
齋藤夫妻は、この無遠慮な質問に目をぱちくりさせ、からだを引いてたじろぎながらも、育ちの良さがうかがえる上品な返答で、無難に乗り切った。
「佐々木夫妻も、こちらに御宿泊?」
「いえね、わたくしたしも当初、まぎれもなくそのお部屋を奨められたのだけど、諸般の事情があってこちらはやめにして、別なホテルに宿泊してるのよ」
「諸般の事情って・・・何か良くない理由でも・・・?」
「ううん。悪くない。ねっ」
「うん。うん。何も悪くない」
「あのお部屋は、狭すぎるきらいはあるけれど、ベリィグッドよ」
『悪いのは、このひとの、寝相!』
わたしの左手と良さんの右手が、お互いを指差して、斎藤夫妻の前で、見事にバッテン(×)に交差した。
ふたりは椅子の背にのけぞって、ガハガハと笑っている。
「そうだったんですねぇ」
やれやれ、あの狭さを楽しんでしまえる、ハニームーンのふたりの初々しさよ。

 コン、コン。ガラス越しのノックの音に振り返ると、ピーター&ラルフが大きい身体で張り付いて、満面の「友情の笑顔」を浮かべているではないか・・・。
 まったく・・・。類は友を呼ぶのである。そして、友達の友達は、皆、友達である。旅の終焉にふさわしい、オールキャスト揃い踏みだ。
 ロッホサイドホテルのバーで、それぞれがオーダーしたウヰスキーが目の前に置かれた。誰からともなく、グラスが高く掲げられる。
「スランジバー!」「スランジバー!」「スランジバー!」
 健康に。友情に。バッカスに。

 翌朝、ひと足先にアイラ島を離れるわたしたちは、飛行機出発までの時間を、ボウモアのメインストリートを散歩して過ごした。ロッホサイドホテルの入り口脇には、見慣れたピーター&ラルフの自転車が止めてある。良さんはスーパーの茶色い紙袋に、昨夜、彼らに、見せるだけ見せてふところにしまった余市の瓶をくるんで、ピーターの自転車カゴにそっと転がしたのだった。

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