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ダブルマチュワード-Port7

第四章 Fourth Order フォース・オーダー

1

「いらっしゃいませ。」

扉を開けるとマスターが微笑んだ。気配を察して、彼が振り返った。
軽く手を上げて、優しく迎えてくれる。いつもと変わらない彼がそこにいた。

シガーの香りがほのかに漂っている。ここに来ると、ちょっと背伸びをしてしまう。
そう、バーは背伸びをさせてくれる空間でもあるのかもしれない。

私は、エントランスでファー付のコートと、白いマフラーをマスターに預かってもらい
ゆっくりと歩いて彼の左に座った。何故か膝がふるえているのがわかった。
この寒さのせいだけじゃないような気がした。

彼のグラスは空いていた。
ジャケットを脱いだタイトなベスト姿の、肩のラインにしばし見とれる。
今夜は少しお洒落してるみたい。
チェックのシャツにチェックのネクタイを合わせるなんて、なかなかできないと思う。
大人の余裕・・・かな。
人当たりが柔らかくて、嫌味が無くて、余計なことを言わないさわやかな彼だから
さらっとできて、その上似合うコーディネートなのかもしれない。

それだから、きっと、モテるんだ。

「次は? 何頼むの?」

「ジン・リッキーにパルフェタムールを少し落としてもらうよ。」

パルフェタムール、「完全な愛」という意味のリキュール。
こういう頼み方ができるのも、やっぱり大人の余裕?
冷めてるわりには、こういうのが嫌いじゃない私のことをよくわかってる。

今夜の彼は、何故かいつもよりご機嫌だ。
きっと仕事がうまくいっているのだろう。
そんな彼を見ていると、私は余計に憂鬱になってきた。

「ブルームーンをください。」

彼が怪訝そうな顔をしているのがわかる。見てはいないけど、なんとなくそう思った。

-ブルームーンには、「出来ない相談」っていう意味もあるんだ。

いつか彼がそう教えてくれた。
このオーダーに深いメッセージを込めたつもりは無い。
あるとすれば、これから伝えなければいけない話を、彼が理解してくれるかどうか
不安な気持ちがそうさせたのかもしれない。

「出来ない相談」は、もしかしたら私にとってのではなく、彼にとっての。

#PINOKO

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