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【土屋守の著者インタビュー】vol.1 吉村宗之氏

科学本のコーナーに置かれている!?

土屋:今月から著者インタビューのコーナーが始まります。記念すべき第1回目は、 吉村宗之さんに登場して頂きます。よろしくお願いします。

吉村:光栄です。ありがとうございます。

土屋:『うまいウイスキーの科学』を今年6月に出版されましたよね。初版の部数はどれくらいですか?

吉村:8000部です。

土屋:この価格でオールカラーは凄いよね。執筆はどれくらいの期間で?

吉村:およそ1年かかりました。平日は働いていますので、なかなか執筆する時間がなくて。朝5時から7時までの2時間ほどと、土日にまとめて書きました。

土屋:ご自分の本が書店に並ぶのを見ましたか?

吉村:はい。でもウイスキーのコーナーではなく、科学のコーナーに置かれているんですよね(笑)。

土屋:タイトルがタイトルだけに(笑)。是非ウイスキーのコーナーに置いてほしいところですね。それでは、出版された経緯をお聞かせ願えますか。

吉村:友人のテイスティング会で、今回お世話になったソフトバンクの編集者とお会いしたことがきっかけです。その方があまりウイスキーを飲んだことがないと言うので、私が持参していたアードベッグのウーガダールを勧めたら、とても感動してくださって。それから話が進んで、本を出すことになりました。

土屋:このシリーズは、ほかにもたくさん出ていますよね。

吉村:はい。偶然その方がシリーズの担当者で。ウイスキーと科学の組み合わせで何か書いてもらえないかというオファーを頂きました。

土屋:「ウイスキーの科学」だと少し固い感じがするけど、「うまい」という言葉が頭に入るとイメージが違いますよね。

吉村:少し、くだけた感じを出したかったんです。

土屋:でも、「うまい」「うまくない」というのは科学的なことよりも、個人の嗜好だったり官能だったりして、科学と結びつけるのは難しかったのではないですか?

吉村:そうですね。ただ、タイトルが先に決定していたので、書くしかないなと(笑)。製造工程、科学的な知識について触れたので、初心者の方には少し難しかったかと思います。

土屋:そもそも、ターゲットにした層は?

吉村:例えばハイボールでウイスキーに興味を持って、さらに知りたいというような方が対象です。既にシングルモルトを飲んでいる方にとっては、若干物足りないかもしれませんね。

土屋:確かに、そこまで掘り下げてはいない…。

吉村:これでも削りに削ったんですよ。実際には、この倍の原稿を書きました。

土屋:関連用語に出てくる「エステル」「硫黄化合物」といった言葉は初心者向けではないけれど、非常にコンパクトにまとまっていて良いですね。本の構成ですが、ウイスキーの種類や原料、製造工程から始まっています。

吉村:三部構成になっていて、製造工程の後に蒸留所の説明、おいしい飲み方と続きます。これについては、編集者と意見が分かれたところもありました。

土屋:というと?

吉村:蒸留所の説明は巻末にしたいと言われましたが、個人的には主観的なものを最後に持っていきたくて。

土屋:編集者は、まず初心者向けに飲み方や味を説いてほしかったのかもしれないですね。でもやっぱり僕も、その前に蒸留所のことを知ってほしいと思いますね。

吉村:蒸留所の説明はだいぶ削りました。

土屋:ちょっと、もったいない気がしますね。

吉村:ボリューム的に厳しいから、2冊で出しましょうという話もありましたが…。

土屋:本が売れない時代だから、それは大変ですよね。執筆していて苦労した点はありますか?

吉村:全体の統一感でしょうか。それから整合性を持たせることに気を遣いました。
 

ベストウイスキーは100%自分好みで…

 
土屋:ボトルはすべてイラストで描かれていますが、特別どのボトルを描いてほしいといった指定はされましたか?

吉村:イラストレーターさんにお任せしました。もし悩むところがあれば、指示しますからって。

土屋:こだわった部分は?

吉村:計画中の蒸留所を掲載したところでしょうか。編集サイドはどちらでも良かったようですが、新しい本を出すなら、新しい情報を載せたいということで。

土屋:新しい蒸留所は、本当に計画通りいくかどうかわからないから、難しいところですよね。

吉村:そうなんですよ。ただ、出版後に評判が気になってネットで検索したら、あるブログを見つけました。「書店で立ち読みしたら、知らない蒸留所が載っていて思わず購入した」って。嬉しかったですね。そうはいっても、ダンカンテイラーのハントリー蒸留所は掲載しませんでした。ジンなどのホワイトスピリッツも造る予定だとかいいますが。

土屋:計画では、グレーンウイスキーも造るらしいですね。連続式蒸留機を入れるという話もあります。

吉村:でも、稼働するかどうかわからないところが多くて。ポートシャーロットは固いと思っていたら、動きが止まっていますし。

土屋:昔のロッホインダールですね。計画中の6つの蒸留所を除いて、他は基本的に稼働蒸留所を掲載されています。

吉村:例外として、グレンキースが操業停止中です。それから、執筆中は動いていたタムデューも止まってしまいました。

土屋:現時点で、という話だから仕方がない部分もありますよね。ところで本の中で、吉村さん的にベストウイスキーを決めていますが、各エリアでそれぞれ選んでいますね。ラフロイグ、グレンリベット、スプリングバンク、オーヘントッシャン、タリスカー、プルトニー。ハイランドはプルトニーですか。

吉村:あとがきにも書きましたが、本当はもう少しハイランドらしいものを探していました。でも今のオフィシャルボトルを考えると、これというものがなくて。確かに異色ではありますが、これは100%自分の好みで選びました。

土屋:僕の感覚だと、グレンモーレンジあたりが入ってくるのかなと。初めて本を出されていろいろ大変だったと思いますが、かなりの達成感があったのだと思います。次はどういうものを出したいと考えていますか?

吉村:やはり、『THE Whisky World』で創刊号から連載していた「失われた蒸留所」を何らかの形にしたいと思っています。

土屋:あれだけの分量を単行本にするのは大変ですよね。これからも応援しています。ぜひ頑張って下さい。今日はありがとうございました。
 
(写真:渡部健五)


 
吉村 宗之(よしむら むねゆき)
1960年生まれ。東京理科大学理学部第一部応用科学科卒。1990年ごろ、スコッチウイスキーの魅力に開眼、しだいに傾斜を深めていく。1998年、ウェブサイト「M's Bar」を開設、書きためていたシングルモルトのテイスティングノートを公開。2005年、ウイスキー専門誌「THE Whisky World」の発足メンバーとして参加、現在同誌にてテイスティングコメントや記事を連載中。2009年、楽天市場ラウンジのウイスキー・ショッピングソムリエとしての活動を開始。昨今はウイスキー関連のイベントでウイスキーアドバイザーを務めるかたわら、ブログ「M's Whisky Diary」の執筆にも勤しむ。
公式サイト:「M's Bar」
http://www.single-malt-scotch.com/

 
『うまいウイスキーの科学』
出版社: ソフトバンククリエイティブ
新書: 208ページ
定価:1,000円(税込み) 
眠らせていたウイスキーを、そっとグラスに注ぐ。長い長い時間が紡ぎだした、無垢なる琥珀の液体。花ひらくアロマ、複雑かつ繊細な味わい。ウイスキーは、いつどのようにしてウイスキーとなるのか。熟成のプロセスには、いまだ謎が多い。人類が磨きあげてきた「命の水」。それがウイスキー。本書ではこの魅惑の酒を、科学的に解説していく。

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