今年7月に自著としては初となる『シングルモルトのある風景』を出された山岡秀雄さん。小学館の編集者と翻訳家という2足のワラジを履く山岡氏に、出版の経緯などを伺った。
書き手でもあり、編集者でもある!?
土屋:『シングルモルトのある風景』を出版されたのは、半年くらい前でしたね。まず、この本を出すことになったきっかけから教えてもらえますか。
山岡:昨年の夏に漫画から映像製作のセクションへ異動になって、映像系の仕事がしたいと思っていたところ、名古屋のウイスキーフェスティバルで偶然「vogue vision studio & 360」の方たちと出会いました。彼らがブースで展示していたアイラ島の風景を映したDVDを見て、これはいけるんじゃないかと。当初はDVD単体とか写真集とか考えましたが、どちらの市場も縮小傾向にあったので、いろいろと検討した結果、蒸留所とボトルを中心にして、僕が文章を書くことになりました。
土屋:僕もDVDを見ていますが、驚いたのは普通のムービーカメラではなく、スチルカメラで撮影していることですよね。ムービーにはないスチルカメラのアングルの面白さがあった。テレビのカメラマンとは視点が違う。斬新だなと思いました。
山岡:三脚を使わずに撮影していている映像も多いですね。
土屋:流れている空気感、その漂っている感じが良かった。
山岡:僕も映像を見ながら懐かしいと思いました。
土屋:初版はどのくらい?
山岡:3000部です。
土屋:今まで山岡さんは翻訳はされていますが、本を書くのは初めてですよね。初めて書かれてどうでしたか?
山岡:書き手あると同時に、編集者でもあり、編集者としては「売らなければ」という思いがありました。営業も宣伝も兼ねて、飛び回りましたよ(笑)。やりがいはありました。
土屋:小学館では、このようなセット物が他にもありますか。
山岡:NHKなどで既に放映したものに、本を付けるというパターンはありますね。例えばバレエ、落語、山岳。ムックで世界遺産も出しています。
土屋:山岡さんが異動されたセクションのお仕事は?
山岡:アニメや映画をDVD化するパッケージの仕事がメインになります。
土屋:本を出す際に、写真集にDVDを付けて、各蒸留所の概要を紹介するだけでは物足りないという話になったんでしょうか。そこで、さらに山岡さんの選んだボトルとテイスティングコメントが掲載されることになったと…。
山岡:そうですね。それからこの価格だと初心者は手を出しにくい価格なので、バーテンダーやある程度のマニア向けに内容を考えました。やや専門的にして、ボトルもレギュラー品は扱わないようにするとか。
土屋:それは面白い視点ですね。僕だったらたぶんレギュラー品を載せると思うし、これは山岡さんにしか出来ないことだと思います。山岡さんがこれまで収集したボトルがあってこそ(笑)。ページの制約もあるだろうから、1蒸留所4本と決めたわけですね?
山岡:はい。
土屋:1蒸留所4本として8蒸留所で32本。この本のために購入したボトルはありますか?
山岡:1本だけあります。「ブルイックラディ40年」です。
土屋:膨大なボトルの中から、各4本を絞り込むのは大変だったと思いますが、その4本を選んだ理由は?
山岡:大体80点以上が付くボトルを選んでいますが、中には点数が低くても面白いなと思ったボトルも取り上げています。例えばブリックラディのX4…。ポートシャーロットは選んでいませんが。
土屋:結構悩みましたか?
山岡:悩むものもありました。オールドボトルは避けようと思いましたが、ラガヴーリンやカリラはなかなか他に見当たらなかったので入れてみました。そうそう飲めないけれど、頑張れば不可能ではないラインで選んだつもりです。
土屋:相当無理があるけど(笑)、確かに探せばバーで見つかるかもしれない。
点数を付けようと思ったのは、コメントよりもインパクトがあるから
土屋:蒸留所について書かれた部分は、興味深いものでした。
山岡:生産工程とフレーバーの関係は海外でも書かれた本が少ないので、書いてみようかなと。ただ、最近出版されたデイヴ・ブルーム氏の『The World Atlas of Whisky』には割りと書いてありました。例えばボウモアのトロピカルフレーバーについて。もちろん、これだという結論は出ていませんが。歴史については皆さん書かれていますが、フレーバーについて触れている人はあまりいませんよね。
土屋:少ないページの中で、山岡さんがこだわった部分がそこなんですね。
山岡:あとはインポーターさんたちに怒られるかもしれませんが、好き嫌いもはっきり書きました(笑)。
土屋:点数を付けようと思ったのは?
山岡:マイケル・ジャクソン氏の『モルトウィスキー・コンパニオン』の影響もありますが、テイスティングコメントよりも点数の方がわかりやすく、インパクトもあるかなと思って。今回改めて一斉に飲んで点数を付けましたが、困ったのは「ボウモア1993 ケイデンヘッズ」。これは人気がありますが、ボトルによって微かにパフューミーなものもあって非常に難しかった。表情を変えるから面白くはありますが、コメントに困る。ですから、かなり飲みましたよ(笑)。僕は84点を付けましたが、世間的に言えば90点は付くかもしれない。
土屋:最高点が「ブラックボウモア1964、42年」の96点で、次点が「ラフロイグ1974」の95点ですね。
山岡:点数的にはブラックボウモアが1点上ですが、ラフロイグも良かったです。コンディションが良かったのもあります。
土屋:ボウモアはフィノカスクを選ばなかったんですね。
山岡:単純に僕自身が持っていなかったというのもありますが、ブラックボウモアのほうがよく知られた存在ですから。
土屋:アードベッグはOMCの1972が最高点…。
山岡:1976年のマネージャーズチョイスも良かったけれど、若干ウッディで…。
土屋:なるほど。それでは今後、何か書きたいものはありますか。また、どんな活動をされる予定ですか。
山岡:ウイスキーに関する海外の本の翻訳をもっとしてみたいですね。デイヴ・ブルーム氏の本とか。それから数ヶ月に一度テイスティング会を行っていますが、もっと初心者の方とも交流をして、ウイスキーの楽しみを伝えられたらと思っています。
土屋:山岡さんにとって、ウイスキーとは?
山岡:豊かで複雑な世界であり、知れば知るほど、わからない部分が増えてくる。USUKEBAブログのタイトル通り「永遠に解けない謎」です。ですから、死ぬまで追求していきたいと思います。
土屋:最後に、『モルトウィスキー・コンパニオン 最新版』についても少しお聞かせください。
山岡:マイケル・ジャクソン氏が書かれたテイスティングコメントは、10年以上前のものもあります。ですからボトルは半分ほど、テイスティングコメントは3分の2くらい変更しました。ただ、マイケル氏だったらこうコメントするだろうというイメージで書いています。それから各蒸留所の変更点、キルホーマンやキルケランなどの新蒸留所の情報を掲載しました。ジャパニーズ、ワールドウイスキーのページも増えています。ジャパニーズは主にギャバン・スミス氏がテイスティングしています。
土屋:これは日本で出した翻訳版でいうと第三版ということになりますね。来年の1月14日ごろ発売ですか。
山岡:はい。よろしくお願いします。
土屋:今後とも活躍を期待しています。今日はありがとうございました。
(写真:土屋守)
山岡 秀雄(やまおか ひでお)
1958年、東京都生まれ。東京大学英語英米文学科卒業後、小学館に入社。ウイスキー・コレクターとしても有名で、世界にネットワークを持っている。スコットランドのノージングコンテストで5回の優勝歴がある。翻訳書にマイケル・ジャクソン著『モルトウイスキー・コンパニオン』、『スコッチウイスキー、その偉大なる風景』、『ウイスキー・エンサイクロペディア』がある。ウイスキー専門誌「WHISKY WORLD」でテイスティングコメントを掲載中。
(写真:渡部健五)
『シングルモルトのある風景 ―アイラ、それはウイスキーの島』
出版社:小学館
単行本:48ページ
定価:3,360円(税込)
アイラの風土と蒸留所、ウイスキーを紹介したDVDBOOK。ボウモア、ラフロイグ、アードベッグをはじめとするアイラの全蒸留所を掲載。著者自身のコレクションからレアなボトル32本を選び、テイスティングコメントを書いている。BOOK、DVDとも、カンヌでWEB FILM賞を受賞した渡辺裕之氏が撮影した映像と画像を使用。
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