最近では、シングルモルトよりも、
「アンパン」のほうが詳しいのでないかい。
なんて云われているバイヤーだけど、
それだけ真っ当な「粒餡あんぱん」もなかなかお目にかからぬのは、
効率化社会の宿命で、たかが「アンパン」されど「あんぱん」で、
アンパンから見える世界も、なかなか奥深いものがあるのです。
それで、話はまた飛んで、「カツ丼」なのだけれど、
奈良の或る町で、昼時になって、食堂とか探して、
人影の無い、空洞化した駅前を歩いているうちに、
軒を連ねる食堂のうちから玄関先が、
いちばん小奇麗に見える一軒の暖簾を潜って、
「カツ丼」を注文した。
やがて「はい、カツ丼」と出てきたどんぶりは、
汁が多くて、ごはんの部分は床下浸水状態で、
けっこう困惑したのだが、
「あれ・・・、これは旨い」。と瞬時に、驚きに変化して、
思わず、写真に撮らせてもらった。
「ご主人。このカツ丼旨いですわ」
「そうですか、わたしも最近デジタル一眼レフを買ったのですよ」
「オヤジに一眼レフですね」
そんな訳で、そのカツ丼の旨い理由は、
汁は多いが、その汁と、ごはんと、玉子かけとが、
妙に連携して、どんぶり全体を包囲しているのだが、
その連携に抗うように、
とんかつの衣がしゃきっとカラットしているものだから、
カツの存在が、あくまでも主役を形成できているのだ。
そういう能書きは、ひとことも言わなかったが、
その地方地方で、独特の流儀があるのが、
B級グルメのいいところで、
行き当たりバッタリに、
その特徴を知ることも、旅のたのしさなのである。
それで、そのあと三日間居た、奈良の昼ごはんは、
「カツ丼」「カツ丼」「カツ丼」と、
奈良の「カツ丼」探訪となった。
奈良は「本物」の名所が存在しているが、
そこに暮す人の気持ちも、
そう、ちゃらちゃらと揺るがないことが、
「カツ丼」を食べながら、解ったのだ。
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