世界中で最も飲まれているシングルモルトといえば、グレンフィディックの名が挙がるだろう。ブレンデッドウイスキー全盛期だった1963年、世界で初めてシングルモルトを発売した蒸溜所だ。
鹿が描かれた、三角のボトル。この一本に福田良和さんが出合ったのは、バーテンダーになろうと考えていた頃だ。12年を口にして、それまで飲んでいたバーボンにはないフルーティさに驚いた。地元の酒屋で「ピュアモルト」と書かれたオールドボトルを手に入れると、さらなる感動に包まれた。ピュアモルト表記は何種類かあるが、恐らく1980年代のボトルである。
モルト好きが一度は通る道なのだろうが、福田さんもアードベッグなどのアイラモルトに傾倒した時期がある。さまざまな地域のシングルモルトを飲んだが、結局はバランスの良いスペイサイドへ戻ってきた。バーテンダーになってから現地へ2度訪れ、マッカラン、グレンリベットなどの蒸留所を巡ったが、肝心のグレンフィディックはスケジュールの都合で泣く泣く前を通り過ぎるだけに。しかし、現地のパブで飲んでいるうちにアットホームな空気に魅了され、オーセンティックなバーではなく、田舎町にあるようなパブをやってみたいと思うようになった。
2013年4月、その夢を実現させて地元の川口にパブをオープン。近くを流れる荒川とスペイサイドをかけて、アラサイドと名付けた。店内の壁には、大麦やポットスチルなど蒸留所の写真があちこちにかけられている。グレンフィディックから始まったスコッチウイスキーの旅は、まだまだ続く。
福田良和氏
scottish pub and bar The ARASIDE
埼玉県川口市栄町3-9-13 K21ビル3F
048-256-7722
17:00~03:00(土・日・祝15:00~02:00)
無休
絵:佐藤英行 文:いしかわあさこ
#思い出のボトル