MENU

メタクサ センテナリー/「bar g_bless」秋山浩希さん


 

紺の美しい陶器瓶。古代ギリシャ様式の紋様が18金で施され、カウンターの上で異彩を放っている。シリアルナンバーが書かれた札が首から下がり、何やら特別な一本であることを窺わせる。

「これ、飲んでみないか」

カウンター越しに、常連客が秋山浩希さんへとボトルを差し出した。年輩の紳士で、いつもコニャックやアルマニャックを飲み、海外出張へ行っては多様な酒を土産に持ち帰る。前回もギリシャへ渡航し、グランドファイン(※)を飲ませてくれた。センテナリーはその名のとおり、100周年の記念ボトル。メタクサは1888年にスピロス・メタクサが発売した蒸留酒で、ギリシャでは最古の歴史を持つ蒸留酒メーカーだ。

なめらかでクセのない、まるで上質なリキュールのよう。まず甘さを感じるが、若干のハーブやスパイスのニュアンスが絡み合った奥行きのあるフレーバーに、秋山さんは感動した。グランドファインにはマスカット香があるが、それよりも控えめな印象。それから営業後には、店に残ってこれを少しずつ飲みながら酒の勉強に励んだ。

2003年、自身の店を開くことになると紺の陶器瓶を探し回った。既に終売になっており、苦労の末に入手できたのは僅か。先の紳士に独立の知らせをしたが、電話番号が変わっていて連絡がつかなかった。
「駆け出しの頃、本当に可愛がってくださった。もう、会えないのかな。来て頂けると嬉しいのですが……」
秋山さんが陶器瓶を見つめながら、追想するように言った。
 
 
※グランドファイン
15年以上熟成された原酒を白い陶器瓶に詰めたメタクサ社の高級品。メタクサのブランデーは、白ブドウを単式蒸留器で蒸留後に熟成したものと、連続式蒸留機で蒸留されたものをブレンドし、さらにマスカットワイン、ハーブ、バラの花などから抽出したエキスと甘味料を加えて造っている。
 

 
秋山浩希氏
bar g_bless
大阪府大阪市北区堂山町8-18 霧島レジャービル1F
06-6312-7177
19:00~04:00
不定休

絵:佐藤英行 文:いしかわあさこ

 

#思い出のボトル

この記事を書いた人