欧米のスタイルを有るが儘に取り入れ、洋酒文化を伝えることに違和感がある。バックバーには洋酒が並び、日本の地酒が置かれることはほとんどない。無論、日本のバーテンダーはその文化を敬仰しながら、自分たちの手で新しい境地を開拓し続けてきた。しかし、日本のバーなのだから日本の酒がもっとあっても良いのではないだろうか……。
「酒肴人」のカウンターで“親方” 髙村光有さんの話を聞いていると、数時間があっという間に過ぎてしまう。二段になったウェンジのカウンターで、頭部までゆったりもたれ掛かることのできる大振りの椅子に座れるのは4名まで。お手洗いに席を立てば、戻る頃には酒が一杯配され、何の酒か当てる大人の遊びが用意されていたりする。
今回、カウンター上段に姿を現したのは北海道余市モルト。1988年10月、後輩を引き連れて蒸溜所を訪れた髙村さんが「マイウイスキーづくり」に参加した際のものだ。中国では、子供が生まれると紹興酒の甕を仕込む風習がある。同年に長男が生まれた髙村さんは、それを思い出した。
製造工程の見学をしながら、余市ならではの石炭直火蒸溜など自らも作業を体験していく。ウイスキーを詰めた樽を貯蔵庫まで運ぶと、C.W.ニコル氏と“ヒゲの殿下”寬仁親王の名が書かれた樽の間に寝かせることになった。1989年12月、10年を経てボトリング。さらに10年間を髙村さんのもとで過ごした琥珀色の酒は、二十歳となった長男へと贈られた。
髙村光有氏
酒肴処BAR 酒肴人内 会員制BAR「BAR ~IST」
大阪市北区堂島1-3-16堂島メリーセンタービル2F
06-6341-5080
17:00~23:00
日・連休祝日休み
絵:佐藤英行 文:いしかわあさこ
#思い出のボトル