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バランタイン30年/「SALOON BAR Meursault」東司丘興一さん

17年がこれだけ旨いなら、30年も飲んでみたい……。20代前半だった東司丘興一さんは、同年代の客人たちに声をかけた。当時、明治屋の正規価格で8万円。そこで常連客だった航空会社の添乗員に免税価格の2万8千円で入手してもらうと、後日「バランタイン30年を飲む会」を開催。東司丘さんを含む6人がカウンターを囲み、未知なる体験に酔いしれた。

ダブル2杯が、一人分。ロックグラスにまずはストレートで注いでいく。それから氷を入れたり、加水したりと各々が好きなように愉しみ、あっという間に一本空けてしまった。とはいえ、皆サントリーの白札などを常飲していたというから、さぞかし大事に味わったことだろう。

時は第一次オイルショック直後、十代で「ジャズボックス ムルソー」を開店した東司丘さんが2号店となる「ジャズバー ムルソー」に立っていた頃だ。関西ではジャズバーの先駆けと言われ、東司丘さんは音楽評論家である故・中山康樹氏の著書『リッスン ジャズとロックと青春の日々』や村井康司氏の『ジャズ喫茶に花束を』に登場している。その後もジャズとバーを愛し続け、やがて北新地を代表する老舗バーとなった。

それから現在まで、バランタインは30年をリリースし続けている。これだけ長熟で品質の高いものを生み出すのは、並大抵のことではない。豊潤でまろやか、考えられないほどメロウなウイスキー。1980年代になるまでバックバーに置くことさえできなかった高級品だが、「あの時、財布の中身を目一杯出して良かった」と東司丘さんは微笑む。それは厳選されたジャズの音色で、さらに深く長い余韻となったはずだ。
 
 
東司丘興一氏
SALOON BAR Meursault
大阪市北区曽根崎新地1-10-22 ミヤプラザ2F
06-6345-5220
18:00~04:00
日曜休み

絵:佐藤英行 文:いしかわあさこ

 

#思い出のボトル

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