1989年4月1日の酒税法改正以降に表示されなくなった「ウイスキー特級」の文字が、ラベル左上に見える。小山浩二さんが実家のある宮城県気仙沼市の酒屋で手に入れたのはその数年後で、先輩からの助言で終売品を買い始めた頃だった。
かつてモルト(大麦麦芽)を原料に、混ぜることなく造られていたウイスキーの歴史を変えたのが、エジンバラの酒商アンドリュー・アッシャーである。1853年に熟成年数の異なるグレンリベットの原酒を混和し、「オールド・ヴァッテッド・グレンリベット」を発売、’60年にはモルトとグレーン(穀物)を混ぜた「アッシャーズ」を誕生させた。
「グリーン・ストライプ」は、1985年に閉鎖されたスペイサイドのコールバーン蒸溜所をメインに造られたレアなブレンデッド・ウイスキー。なかなか見かけることのない銘柄で、小山さんも酒屋で目にしたのはそれきりだという。
しかし、その出合いから休日には自転車に乗って町の酒屋巡りに勤しむようになった。先の酒税法改正と同年の6月に「酒類販売業免許等取扱要領」が改正され、規制緩和が始まると、コンビニやスーパーなどの新業態が参入。徐々に町の酒屋は、姿を消していった。無くなってしまう前に、と彼方此方の酒屋へ顔を出し、目当てのものがなくても主人との会話を愉しんだ。
そうして少しずつ集めたウイスキーをバックバーに並べて、2006年に開店。いま、改めてあのボトルを飲んだらどう感じるのだろうか……。とっくに空になってしまった一本と、新しくなんとか手に入れた一本を小山さんが穏やかに眺めていた。
小山 浩二氏
BAR KEITH
東京都新宿区歌舞伎町1-15-8 白木ビル4F
03-3202-2572
19:00~03:00(日・祝18:00~02:00)
不定休
絵:佐藤英行 文:いしかわあさこ
#思い出のボトル