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タリスカー10年/「BAR STING」深澤篤志さん

うっ、美味しくない……。長野県松本市からバーテンダーになるため上京してきた深澤篤志さんは、新宿のバー「リフレイン」で勤務していた。カウンター越しに最も聞く銘柄が「ラフロイグ10年」。初めての給料を手に、どんなウイスキーだろうと近所のバーで注文してみた。しかし、自分の舌に全く合わない。何故これが売れるのか不思議に思いながらも、次に聞く「タリスカー10年」を飲んだ。

スモーキーで、ピリピリとした塩味と甘味を感じる複雑な味わい。スコットランド・スカイ島にある唯一の蒸留所で、『宝島』『ジキル博士とハイド氏』の作者であるロバート・ルイス・スティーヴンソンが「酒の中の王様」と例えたことがある。一度で気に入った深澤さんは、それ以降何処へ行ってもタリスカーを飲むようになった。

その頃のタリスカーはUD社のクラシックモルト(※)のひとつで、「花と動物シリーズ」「レアモルト・セレクション」がリリースされていた。バックバーに年代物やボトラーズのウイスキーが少し並んでいるだけでも驚いてしまうような時代に、深澤さんは今やレアボトルである「ジョニーウォーカーラベル」やGM社「ブラック・イーグルラベル」の1958年などのタリスカーを飲んで感動した。

それから20年が経ち、自身の店を開いて11年が過ぎようとしている。数多くのウイスキーと出合い、求める味わいも変化した。今はプライベートで何を飲んでいるのか尋ねると、「ラフロイグ10年のストレート」と深澤さんが笑った。
 
 
※UD社のクラシックモルト
現ディアジオ社の前身であるUD社(ユナイテッド・ディスティラリーズ社)が1990年前後にリリースしていた。「花と動物シリーズ」はスタンダード品、「レアモルト・セレクション」はプレミアム品(長期熟成の樽出し原酒)の位置づけ。

深澤篤志氏
BAR STING
東京都新宿区新宿3-8-2 クロスビル3F
03-3341-8641
15:00~04:00
水曜休み

絵:佐藤英行 文:いしかわあさこ

 

#思い出のボトル

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