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ザ・ウイスキー/「Bar Goat」武光明さん


 

「それは古くて飲めないだろうから、売っちゃ駄目って言われてるのよ」

地方の酒屋巡りをしていた武光明さんは、店番をしていた女性を説得して有田焼の特製ボトルを手に入れた。木箱は埃まみれで、もう何十年とそこに在るかのような有様。決して安い買い物ではないが、初めて飲んだときの感動をもう一度味わいたかった。

かつてサントリーが年に一度、最高のモルト原酒を厳選してブレンドしていた「ザ・ウイスキー」。山崎蒸留所で30年ほど熟成期間を経たモルトが中心に入っているとされ、岩尾磁器工業によるウイスキー製造工程のレリーフが美しい。サントリー創業者・鳥井信治郎氏の次男である佐治敬三氏が「持てる技術と経験のすべてを注いで追い続けた、父子二代の熱い夢が実現した」と語っており、唯一・至高を意味する「THE」が付けられていることからも並々ならぬ思い入れがうかがえる。

2010年、武さんはこのボトルを15年ぶりに味わった。喜界島出身ならではの南国フルーツを使ったカクテルや山羊料理、そしてオールドボトルが楽しめるバーを開いたことがきっかけだ。オールドボトルはオフフレーバーが生じたり、アルコールが揮発するなどリスクが高く、ましてや陶磁器は液面の高さの確認もできない。しかし、武さんは「ウイスキーに感じる柔らかさの極致」と改めて感動した。

サントリーは毎年、九谷や織部などのやきものにウイスキーを閉じ込め、スペシャルボトルコレクションとして販売している。職人の技術が出合い、一本のボトルで観る、触る、香る、味わうといった愉しみかたを今後も飲み手に提供し続けてくれるはずだ。

 
武 光明氏
Bar Goat
東京都中野区中野5-36-13 高崎ビル2D号室
03-3389-0905
19:00~04:00(日・祝~01:00)
定休日 不定休

絵:佐藤英行 文:いしかわあさこ

 

#思い出のボトル

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