食感が、ウイスキーにあったなんて。熟れた柿のような、トロッとしてジュワッと広がるフレーバー。アルコールを飲んでいるというより、果実を食べているようだ……。25年ほど前、はじめて飲んだシングルモルトの「食感」に伊藤学さんは驚愕した。
グレンリベットは、かつてその人気から蒸留所名を無断で記したボトルを販売する者が後を絶たず、1880年に訴訟を起こしたほどだ。ラベル上部に赤玉と呼ばれる紋章が描かれた、1974年頃より前のボトルが名品として知られている。以降はシスル(あざみ)が描かれ、中央に赤字で「アンブレンデッド・オール・モルト」と書かれたものから「ピュア・シングル・モルト」へと変遷する。
赤玉も無論美味しいが、はじめて飲んだボトルは誰もが忘れられないはずだ。流通した年代で異なるが、最もはっきりしていてわかりやすい味わい。先輩にもスコッチの基準はグレンリベットだと教えられ、伊藤さんはそれより甘い、濃い、ドライなど、さまざまなテイストを客に勧めるときの参考にしてきた。
「自宅でもこのボトルを飲んでいましたが、好きなのでつい空けてしまいました。ところが、結婚式を挙げたときに思い出のボトルとして僕がこれを、妻がポールジロー15年を紹介したら、ある酒屋さんがプレゼントしてくださったんです。グレンリベットに出合っていなかったら、きっとバーの世界に入っていませんでした。頂いてからなかなか、開けられません」
バーテンダーになるきっかけを与えてくれた一本。いまもウイスキーを口に含むと、心ともなく食感を探す。
伊藤 学氏
Ne Plus Ultra 六本木
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絵:佐藤英行 文:いしかわあさこ
#思い出のボトル