誕生日や記念日など、特別な日を祝う際に贈られるヴィンテージワイン。三十路になる節目の年、山田高史さんのもとにソムリエである友人からバースデーヴィンテージが届いた。
シャトー・ムートン・ロートシルト。フランスはボルドー・メドックの名シャトーで、1853年にユダヤ系のロスチャイルド家が買収した。芳醇で艶めかしく、エレガントな味わい。100年以上も変わることのなかったメドックの格付けを覆し、第1級に格上げされた唯一のシャトーとしても知られている。
それまでも、ムートン好きの常連客がしばしば店に持参し、さまざまなヴィンテージを20本ほどは飲んでいた。山田さんにとって、縁のある銘柄だ。ただ、ここまで古いものは初めてだった。
「ムートンはマールやリキュールも造っていますが、統一した香りの特徴があるように思います。品があって華やかで、“ムートン香”というんでしょうか。色に例えると、紫のイメージですね」
1945年以降、ダリ、ミロ、シャガールなど毎年異なる芸術家によって描かれるアートラベルも人気で、’76年はフランスの抽象画家ピエール・スラージュの作品だ。青を基調としたラベルに、ムートン・ロートシルトの頭文字が隠れている。ボトルを見ているだけでも愉しめ、その美しさからコレクターも多い。
自分と同じ年に生まれ、同じ時を過ごしたワイン。神秘的でロマンを感じる赤色は、贈り主が来店するのを待って乾杯した。それは、アールヌーヴォー調の重厚な店内の隅に並ぶ数々の表彰楯や賞状の奥に、いまもひっそりと置かれている。
山田高史氏
Bar Noble
神奈川県横浜市中区吉田町2-7 VALS吉田町1F
045-243-1673
18:00~01:30
無休
絵:佐藤英行 文:いしかわあさこ
#思い出のボトル