ロンドン塔を守る近衛兵、ビーフィーター。彼らはクラウンジュエル(王家の宝)を守り、国王主催のパーティで残った牛肉の持ち帰りを許可されたことからBEEF+EATER(牛肉を食べる人)と呼ばれるようになったという。そのビーフィーターがトレードマークのジンは、現在もロンドン市内で蒸留される唯一のロンドン・ドライ・ジン。40度と47度のものがスタンダード品だが、かつて50度のプレミアム品「クラウンジュエル」が販売されていた。
「15年ほど前、ここで働き始めたときにマティーニのベースで使っていたのがクラウンジュエルでした。いつか、これでマティーニをつくりたいと思っていましたね。僕にとっては、憧れのボトルです」
店長の井上豪介さんが透明なリッターボトルを眺めながら、回想するように言う。どっしりとしてクラシカルでありながらキレがあり、度数を感じさせないクリアさと爽やかさ。マティーニのベースとして申し分ない逸品だ。ところが、その数年後には紫色にリニューアルし、しばらくすると終売になってしまった。もともと免税店限定だったこともあり、そう入手できるものではない。
それからは通常の営業日にほかのジンを、店の周年などの記念日にはクラウンジュエルを使ってマティーニをつくるようにした。その度に常連が集い、共に愉しんでいる。滅多にこれを手にすることはなくなったが、いつもに増して心がこもっているのは客人に伝わっているだろう。買い溜めしておいたボトルが少なくなるにつれ、その思いは強くなっていく。
SHOT BAR ふくろう
東京都大田区蒲田5-21-13 ペガサスステーションプラザ1F
03-3732-5324
18:00~04:00(日・祝~01:00)
無休
絵:佐藤英行 文:いしかわあさこ
#思い出のボトル