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■バイヤーの出し惜しみ


――あれ、ボウモアじゃないですか。「ケルト」じゃないのですか。
――は、は、は、出し惜しみもバイヤーの特権乱用。
――まぁ、ボウモアはスグになくなりますからね。
――そうそう。このスリーリバースボウモア1994いいですよ。
――何処がどうなんですか。
――近頃のフルーティモノとは一線を画す、硬派の荒々しさがあります。
   是非オススメです。
――うーーん。判んないけど、なんだろう。コレ子供の頃のキャンプの香りだ。
――そうかマッキーは、海でキャンプしたんだね。いい感性してるよ。
――わー、キツイ・・・。でもワタシこれ好きです。
――ありがと。

・・・そういえばここ数年、
常に何処かでモルトの「寿命」とか考えながら、ウィスキーを愉しんでいた。
それで、いまのところの印象は、やはり18年位がいいところかなあ・・・。
という所に落ち着いている。
それは実に単純な、ボトル選定のセオリーでもある。
結果的に、そのモルトの特性を、もっとも豊に、しかも素直に感じられるボトルは、
「18年モノ」と称するボトルに多いことは、以前から感じていた。
もちろん、これは素人判断の、感覚的なもので、別に深い意味などない。
一方でそれは、これはちょっと豪華にという、
マーケティングのセオリーでもあるのかもしれない。

ところが、様々な要因からか、「18年」持たないモルトにも多々巡り合った。
・・・そうか、このモルトの寿命は、こんなものなのか。
なんて勝手に思ってしまうのだ。
・・・それも、じぶん流のモルトとの付き合い方に過ぎないかもしれないけれど。
素人のバイヤーが、これまで飲んだショットは、
たかだか4000ショット位なものだろうから、別にどうという事はなく、
これはモルトの世界から見れば、爪のアカをちょっと齧った程度にも及ばない。
ディステラリーには、
まだまだお目に掛からぬウマイ樽が、限りなく埋蔵されているのだ。

それで、無い物ネダリの物欲にも際限がなく、
ついつい希少なボトルに及んでゆくのだが、
はたして、それに見合う、付き合い方をしているのかと、
自問して、ついつい、口が悪いもので、
――まあ、下品な。・・・なんて自己嫌悪したりしているのだが、
それは熟成相応の、モルトとの付き合い方というものを自らが心得ているのか。
という自問自答の言い訳でもある。

・・・それで、永い時間を掛けて熟成した、希少なボトルが目の前にある。

 

半世紀もの眠りから覚めて、いまここに甦るワンショット。
ああだ。こうだ。と思いつつも、ちょっと待てよ。ちょっと待てよ。
と一方で、何かを探し求めるものがある。
それはいったい何なのか。
自らの経験の範疇を超える一杯のモルトとの出会いに、
あれやこれやと、よぎる想いも、やがて薄れて、
ただ、ぼんやりと浸っているのも、
さすがに長い時を越えてきたモルトならではの、楽しみなのだ。
ウトウト。
――ちょっと、ちょっと、バイヤーさん。
――あっちゃー、いけねえ。オレも何かボケてきのだろうか。

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