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ダブルマチュワード-Port8

第四章 Fourth Order フォース・オーダー

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出会った頃、カクテルをあまり好まなかった私にとって、彼はカクテルの先生でもあった。
私は、特段ジンベースのカクテルが好きになった。
きっかけは、サンジェルマンでの彼との『フレンチ75』。
ジンとシャンパンの組み合わせなんて、初めは考えられなかったけど
飲んでみたらすごく美味しかった。

スノッブに輝くシャンパンの華やかな香りに、クールなジンの芳香が自然となじむ。
それぞれが、それぞれの成り立ちで産まれ、全く別の個性を持っているのに。
出会いのときの煌きが、『フレンチ75』そのもののように思えた。

あれから4年が経とうとしている。

ほどなくして、ヴァイオレットに光る宝石みたいなカクテルがそっと出された。
一瞬、左手の『ピジョン・ブラッド』が、その光に照らされて蒼く見えた気がした。

ブルームーンは、その深く朧げな色合いと媚薬のようなほのかな甘みに、
涙のような酸味が加わって、とても幻想的なカクテルに思える。

このオーダーには特に深い意味は無いような気もするし、あるような気もする。
どっちつかずの私に、彼が嬉しそうに話し始めた。

「来月から本社に戻ることになったよ。一応、栄転だよ。」

「そうなんだぁ!おめでとう。」

「給料も少し上がるんだよ。」

「やったね。」

彼にとっても私にとっても、嬉しいニュースだった。
ずっと本社勤務をねらっていたのも知っている。
転職して、いろんな苦労もしてきただろう。この数年は、本当にがんばっていた。

一方で、これから話さなければならない、私のニュースはどうなんだろう。
嬉しいニュースでもあり、嬉しくないニュースでもある。
次の言葉が見つからなくて、店内のスクリーンに目を移すと、
今まで観たどの時よりも綺麗なミシェル・ファイファーが、ロングドレスを着て歌を歌っていた。

「『恋の行方』ですね。」

マスターがグラスを拭きながら、ひとりごとみたいにそう囁いた。

シガーの香りが強くなってきたその時、どこかで携帯の着信音が鳴り響いた。

私は次の言葉の用意が出来た気がした。

#PINOKO

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