香りを見つける喜び。それは初めから備わっているものではなく、少しずつ経験して幅を広げながら噛み締めていくものだ。例えばスコッチで代表的なスモーキーフレーバーは取っ付き易く、そこからエステリー、フルーティなどの香りが見つけられるようになっていく。特に北ハイランドの特徴的な香りに気付くようになれば、ウイスキーの奥深さが味わえると武蔵昌一さんは言う。
「軽やかな洋梨の香りが顔を出し始めるのが、グレンモーレンジなど北ハイランドの特徴です。このクライヌリッシュは、さらに海の香りや細かい粉っぽさ、厚みがあってバランスがいい。ヨーロッパの人たちが『スミレの香り』という表現をしますが、きっと白粉のような香りに甘味がついたものを指しているのではないかと。北ハイランドには、そういう香りがありますよね」
UD社(ユナイテッド・ディスティラリーズ社)が所有する蒸溜所の希少なモルトウイスキーをカスクストレングスでボトリングしたシリーズが、「レア・モルト・セレクション」。武蔵さんはストレートではなく、40度を切る程度に加水する。低温になると高級脂肪酸などの香味成分が析出し、ウイスキーは白濁し始めるが、それと共に香りが立ってくる。あえて白濁を愉しむというわけだ。
「個人的なイメージですが、ウイスキーってなんとなくこっちを向いてくれない感じがあって。自分から働きかけないと、見えてこない。そんなところがウイスキーの魅力で、特に北ハイランドにはなかなか視線を合わせてくれないものが多い気がします。だから、追いかけるのかもしれません」
武蔵昌一氏
BAR武蔵
東京都中央区銀座8-10-7 東成ビルB1F
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18:00~26:00
日・祝休み
絵:佐藤英行 文:いしかわあさこ
#思い出のボトル