余市駅に降り立ち、石造りの重厚な正門をくぐると「ニッカウヰスキー 北海道工場」の看板が見えてくる。蒸溜棟、乾燥棟の間を抜けて奥へ進めば、多数の赤い屋根は雪に覆われ、壁にぶら下がる氷柱がその寒さを物語っている。
「両親が北海道出身だからか、余市蒸溜所には肩入れしてしまいます。特に冬の景色はいいですね。毎年のように足を運んでいた時期もありましたが、常に新しい発見があって勉強になりました」
山本悌地さんが立つカウンターからやや上方左手に視線を向けると、数本のボトルが並ぶ棚があり、その中に空になった「ニッカ シングルカスク 北海道余市モルト1987-2002」がある。
「色がとても綺麗なのが印象的でした。やや濃い色ながらクリアで、トップノートのピートから続く塩っぽさはこの環境ならではですね。バニラ、アーモンド、キャラメル、どことなくお線香のようなオリエンタルな香りもしました」
ボトリングされた2002年は、「シングルカスク余市」3種が発売された年でもある。それぞれ特徴の異なる樽で熟成させ、「シェリー&スウィート」「ピーティ&ソルティ」「フルーティ&リッチ」と名付けられた。こうしたウイスキーの奥深い楽しみ方に、山本さんは魅せられた。
一昨年は、自ら工場で蒸溜、樽詰めしたウイスキーが10年後に届く「マイウイスキーづくり」に参加した。2日間、つなぎとヘルメットで作業し、樽を貯蔵庫まで転がしたという。そのウイスキーと再び会える頃、バー「カサブランカ」は29周年を迎える。すぐに開けたい気持ちを抑えて、翌年の30周年に祝杯をあげるつもりだ。
山本悌地氏
The Bar CASABLANCA
神奈川県横浜市中区相生町5-79-3 ベルビル馬車道B1F
045-681-5723
17:00~02:00
無休
絵:佐藤英行 文:いしかわあさこ
#思い出のボトル