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ストラスアイラ

 『A96』が『A95』とぶつかる町が、Keith(キース)である。アバディーンから約57マイル(90Km)の距離だが、信号も渋滞もない道程は、ストレスを感じることなく心穏やかに移動できた。

 ここまで来れれば、今日の宿までは1時間もかからない筈で、むしろ、先を急ぐことは無い。さっそく、スペイサイドでもっとも古い、ストラスアイラ蒸留所に寄ってみることとなった。2つの美しいキルンが印象的なストラスアイラは「絵になる」ので、スコットランドのガイドブックの表紙などに、頻繁に用いられている。
 見学の申し込みをして、12人集まったところでツアーの開始となった。夏のヴァカンス時期であるから、人々の国籍は様々である。長いブロンドの髪をうしろでひとつに束ねた、妖精のように楚々とした女の子と、青いつなぎを着た男の子が、ガイドにつく。
 
 ここは、ジョージ・テイラー氏によって創業された1786年当初、ミルトン蒸留所と呼ばれていたが、(リネン産業で栄えた18世紀の、Milltown-「工場の町」意。)1905年にシーグラム社の傘下となる、シーバス・ブラザース社に買収されてから、ゲール語で「アイラ川が流れる広い谷間」という意味の『Strathishaストラスアイラ』と改名された。
 ストラスアイラでは、Chivas Regal(シーバスリーガル)の核となるシングルモルトを製造しているので、背の高いガラスのキャビネットには、シーバス兄弟に因んだ収蔵品が並び、その中には、皇太子殿下・美智子妃殿下の御成婚の際に寄贈したという、特注ボトルのレプリカもあった。
 つなぎの男の子は、醗酵槽の蓋にひょいと座ったり、ポットスティルに寄りかかったりしながら、製造工程の説明をする。変にかしこまったり、マニュアルめいたりしてなくて、(やっぱり、すごくなまっているけど)素のままの彼の言葉から、仕事に対しての情熱と誇りが感じられて、好感が持てる。

 ストラスアイラ12年の味わいは、泉の水のたおやかさに由来している。泉には『水の精伝説』があって、『謎の隠し味』が加味されているそうである。すがすがしいが華やかなブーケがあり、アルコールの厚みは、ガツンというよりはひたひたと広がる感じ。エレガントでありながら、ちょっぴりセクシー。ワインレッドのシルクのスリップドレスをはじめて身につけた、淑女のイメージ。ボトルもスクエアなスモークグリーンで、群を抜いた美しさである。
 良さんはさっそく、今晩の寝酒用にと『STRASTHISHA 12YEARS』を購入(ディストラリーだからといって、レア物が即時入手出来るわけではないらしい)。 わたしは、ストラスアイラの2つのキルンを描いた版画(2/60)を購入した。

 帰り際女の子に質問してみると、ここにはDizzy(ディジー=頭がくらくらする)という名のウヰスキー・キャットがいるとのことだが、猫はいつだって気まぐれなもの。お目には掛かれなかった。

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