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竹鶴Bar

 2000年秋口のとある日、いつものように日経新聞の夕刊をめくっていると、「ニッカウヰスキー新商品『竹鶴』発売にあたり、青山本社にプレ試飲Barを特設」という小さな記事に目がとまった。
(バッカスよ。 何故に貴方はそんなにまでわたくしを、酒の細道にお導きになるのですか?)すぐさま、耳元で「ジャジャジャジャーーーン」とベートーベンの『運命』が鳴り響く。
(あぁ、そうですね。それなら仕方がありません)わたしは運命に逆らわず、新聞をたたんで会社を後にした。
 
 『竹鶴Bar』は、会社帰りの殿方で賑わっていた。オールスタンディングで、L字形のカウンターの他に丸い肘のせテーブルが5つ。どのテーブルも埋まっていたが、女ひとり、ふらっと足を踏み入れると、社員が目敏く近づいてきて、カウンターの中央に、わたしのためのスペースをつくってくれた。落ち着いてあたりを見回たせば、男性約50人程に、案の定、女性は3人ばかり。実はわたしは、女、子供が苦手である。(だからと言って、特別に男好きなわけではありません。若い男の子も苦手です。ええ、確かに)大人の男性の、慎ましやかな談笑の中に居るほうが心安らぐのである。
 となりに居合わせたO氏は『BARレモン・ハート』(*注:下記参照)のまっちゃんみたいな人で「じゃ、貴女はトレンチコートを着ているから、めがねさんということで」なんて意気投合して、勢いづいて、ダブル・フィンガーをターキー(3杯)で注文してみたりなんかした。(まったく)
 
 こうして、想い掛けなくハード・ボイルドに過ごしてしまったわたしは、木枯らしに負けそうになりつつも、コートの襟を立て、ネオンの街を(やっと)帰路についたのであった。

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(注:『BAR レモン・ハート』)
連載20年を超えた、酒好きの、酒好きによる、酒好きのためのマンガです。
そのバーは港町のはずれにぽつんとあって、お酒を愛して止まない記憶力抜群のマスターがひとりでやっている店です。
マスターは、なかなか手に入らないお酒を求めて、時々ふらっと旅に出たりもします。
まっちゃんは、そこの常連で、お酒は好きだけれど、いまいち味が解かっていない、サラリーマンライターです。丸顔で人懐っこい性格で、なかなか面倒見がよく、落ち込んだり悩んだりしている友人や後輩は、すぐにレモンハートに連れて行き、慰めたり励ましたりします。
もうひとりの常連が、何時いかなる時もトレンチコートを着て、帽子を被り、サングラスを掛け、ハード・ボイルドに極まっているめがねさん。めがねさんには謎が多く、正体不明ですが、マスターに引けを取らないほどお酒に詳しく、たいていカウンターの端っこで新聞を広げています。

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