2012.05.17
さぁ、スコットランド最西端。2008年にオープンしたばかりの新興蒸留所、アビンジャラクをご紹介です。
(小さなアビンジャラク川が脇を流れる)
(ゲール語で「赤い川」を意味するアビンジャラク。ヴァイキングに支配されていた当時、税金を取りに来た税吏を殺し、川に投げ捨てたことからこの物騒な名前がついたんだそう。現在、川を流れる水は赤く染まってはいなかった。ピートの色がついていてもいいのにな…)
(看板には「RED RIVER DISTILLERY」の文字も)
(門の隣には数台止められる駐車場もあった)
(駐車場のわきにあった謎オブジェ)
蒸留所の付近はなにやら重機が運び込まれて工事が行われているし、目の前を流れる川も爽やかというかはだらだらと流れている印象で、洗練とはほど遠い雰囲気。
そんな雰囲気にわくわくしながら、プレハブのような建物に近づいていきます。
(門をくぐってすぐの所にはドラフ用のタンク(?)と思しき設備が打ち捨てられていた。この規模じゃ必要ないと思ったが、いつか使うかもしれないし取っておいているのかも)
完全にプレハブの様相を呈している事務所を覗き込むと、窓から中のおっちゃんが気付いて、入り口のドアを指で指し示してくれる。
出てきたイワンというおっちゃんに挨拶をしてツアーを開始。
といっても蒸留所の規模はとても小さく、当然全ての設備は一つの建物に集約されている。
あれだこれだという各種設備の説明も非常にラフで「それよりも、まぁ飲めよ」という感じで入り口にあったボトルから、まずは試飲させてくれた。
(3年のバーボン樽と2ヶ月のシェリー樽。バーボン樽はバニラ香が強くでていたのだが、その中に、いままでモルトでは感じたことの無いような甘みがあって面白かった。シェリー樽はかなり荒削りな印象だった)
イワンに「ウイスキーは好きか?」と訊かれたので、当然のように「オフコース!」と答えると「サービスだ」と言って試飲のカップにどぼどぼ注いでくれた。日本で飲むにはちょっと手が出ないほど高い値段がついているので、これはラッキー。しっかり味わいながら、設備の見学を開始です。
(全ての設備は一つの部屋にまとまっている。倉庫のような建物)
(一際目を引くのはやはりこのスチル。寸胴なボディと丸みの無いネックや直線的なラインアームは他には無い形状で、ロッホユーでの密造酒スチルに近い形かもしれない。ワームタブも存在感があってとてもいい雰囲気)
(向かって右手が初留釜。よく見るとラインアームの途中がひもでつられている。この辺もロッホユーっぽい)
(向かって左手が再留釜。どちらも強引に折り曲げたようなラインアームが特徴)
(部屋の片隅には加熱用のボイラーも。この日はこのボイラーが故障したとかで、製造はお休みしていた)
(ワームタブから出ている細いパイプを通って真ん中のスピリットセーフへ。そしてスピリットセーフから伸びているパイプはワームタブの下をくぐって…)
(奥にあるチャージャーへ溜められます)
(スチルを背に室内を見渡すとご覧の光景)
(マッシュタンはステンレス製。メタリックな光沢が、どことなくそぐわない雰囲気でした)
案内してくれたイワンは丁寧なんだけど荒っぽい口調で、かなり勢いのある人物。それこそヴァイキングを彷彿とさせるような人物でとてもエネルギッシュだった。
(「飲むかい?」と直接レシーバーからニューポットまで試飲させてくれた)
(そしてウェアハウスへ)
(物置も兼ねているような雑然としたウェアハウス。樽鏡面のカラーリングは蒸留年ごとにわけられているんだそうです)
イワンはエネルギッシュな口調で、終始「見学?お前一人か?」「帰ったら宣伝して、来年はもっと大勢できてくれよ!」「樽買うか?一樽でも」と結構な頻度で金のことを口にしており、経営的にはまだ厳しい様子をうかがわせた。
敷地内には石が積まれたまま建設途中のような建物があったので「これはなに?」と訊ねると「これはいまショップを作ってる所だ」と言っていたので、観光にも力を入れようとしているよう。「来年末には5年ものもリリースするぞ」と言っていたので、それはとても楽しみです。(少しでも安くなればいいな…)
見学も終わろうという頃に、オーナーであるマークも姿を現したが、なにやら怪我をしたのか松葉杖をついており、軽く挨拶しただけであまりお話は出来なかった。
そんなこんなでとてもヴァイキング風な印象を与えるアビンジャラク蒸留所。おそろしくアクセスの悪いところにありますが、その雰囲気は他では味わうことの出来ないものなので、オススメですよ!(宣伝)
さて、ツアーも終えて、これからストーノウェイに帰るまでもちょっとしたアドベンチャーでした。
「by shop」を頼りに、バス到着予定の30分以上前にスーパーまで到着。まかり間違っても逃してはならん、というプレッシャーの中、寒風吹きすさぶ屋外でバスを待つのはとても辛かった。
しばらくしたら逆方向からバスが来て、乗客を降ろすと、しばらくその場で止まっている。
これはもしかしてこのバスなのか?と思い、運転手のお兄ちゃんに「これってストーノウェイ行く?」と訊いてみると、なにやら慌てたような様子で「とりあえずついてきな」とショップの中まで手招き。
どうやら問題のリクエストストップについて言っているらしく、私が「インフォメーションセンターの人に頼んで電話してもらったよ」と言っても心配してくれている様子で、ショップのおばちゃんにも色々話をしたり、電話を借りてバス会社に連絡をとってみてくれたりと、とても親切にしてくれた。
結局、電話はつながらなかったみたいで「まぁ電話したんなら大丈夫だろ」みたいな感じで待っていることに。
不安は増すばかりだったが、しばらくするとミニバスがやってきて、私が手を振って止めると「ストーノウェイまでだろ?」と全てを理解しているようで、安心して乗り込む。
よかった、帰りも無事乗れた、と遭難の危機を回避したことで弛緩したのだろう、急に眠気が襲ってきてぐーぐー寝息を立てていると、ほどなくバスが止まり「降りろー」と。
寝ぼけ眼でもう着いたのか?と思ったが、それはどう見てもストーノウェイとは違った風景が広がっている町。
ここはどこだ、と混乱する私に対し、運転手さんは「あっちから白いバスが来るからそれに乗りな。10分くらいで来るからな」と親指を立てると、私を残して去っていってしまう。
てっきり、ミニバスでストーノウェイまで行けると思い込んでいた私にとって、まさに寝耳に水。
まったくどこかも見当がつかない場所で降ろされ、寝ぼけ半分に、そうでなくても理解できない英語で説明をされたものだから、不安は増すばかり。
確かに「ホワイト・バス」って言った。「あっちから来る」って言った、と自分を信用しながら待つこと数分。まさしく白いバス、それもようやくちゃんとした、ミニバスでもポストバスでもない、バス然としたバスが現れたので、猛然と手を振って乗り込む。
行きのポストバスで買っていた往復チケットを見せようとすると「分かってるよ、電話で聞いたからな」と。
この国のバスの仕組みはどうなっているのだろうか。行きと帰りで異なる3社のバスを往復で一枚のチケットで乗れる。それも、電話で連絡を取り合って、一人の旅行者を目的地まで運んでくれるのだ。
もしかしたら違うのかもしれないし、私が迷惑をかけて特別にそうしてもらっただけなのかもしれないが、とにかくこのシステムには感動した。
無事、ストーノウェイに到着し「サンキュー」と降りようとした時、運転手さんがカタコトで「アリガトー」と声をかけてくれる。
突然のことでそれが日本語だとは判断できずに、きょとんとしてしまった私に「アリガト?アーリアト?」と発音を変えながら何回か運転手さんは私に言ってきて、それでようやく、わたしの「サンキュー」に対して日本語で答えてくれたのだと分かった。
運転手さんも私に伝わったことが分かると、とても嬉しそうに手を振ってくれた。
「バーイ」と言うついでに「さよなら」と付け加えると「サヨナラ!サヨナラ!」と思い出したように興奮して、とてもいい笑顔で見送ってくれた。
島は無骨だけれど、そこに住む人々がとても温かく感動的な体験でした。
#Abhainn Dearg