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116.インチデアニー / InchDairnie

2017.1.25

 ダフトミルを不完全燃焼的に見学した後は、ローランドの新興蒸留所の一つ、インチデアニー蒸留所を目指します。

 セントアンドリュースからダフトミルのあるボウオブファイフまでバスで1時間ほど。そこからさらにバスで30分ほどで、グレンロセスという町に到着します。そこからはバスでは20分ほど、徒歩だと1時間強ほどいった場所にある、グレンロセスゴルフコースのすぐ近くにこちらの蒸留所はございます。私はというと、バスのタイミングが合わなかったのと、やはり生来の貧乏性で徒歩を選択。こういう場面では徒歩を選択することが多いのですが、向こうは基本的に車社会。Googleマップ先生に聞いたルートに歩道がないなんてことはざらで、今回もそのパターン。びゅんびゅん走って行く車の邪魔にならないように、細い身体を八重にも九重にも折りたたんで路肩を歩いていきます。

 幹線道路から住宅街に入り、多分このストリート沿いだと思うんだけどなー、とキョロキョロしていると、ちょうどその道の突き当たりに現れたのが、こちらのゲートです。

(ひゃっほう!到着だぜ!ビックリマークのロゴがイカすぜ!)

 いかんせんまだ新しい蒸留所なので、ほとんど情報はないのですが、ここでインチデアニー蒸留所の基本情報をお伝えしようと思います。
 2014年創業、正式なオープンは2016年5月に行われたばかりという、極めて新しい蒸留所。この業界に40年以上の関わりを持つイアン・パルマー氏が、今後さらに広がるであろうウイスキー需要に対する安定した供給を実現するために建設しました。その近代的で科学的かつオリジナリティに溢れたいくつかの製造方法は、ここ最近の新興蒸留所とも、これまでの蒸留所とさえも、一線を画す存在感のある蒸留所と言えましょう。せっかくですので、オフィシャルのホームページにも載っている「うちはこんなに他のとこと違うんでっせ!」というアピールを見てみましょう。

① Seasonal Barley
 多くの蒸留所がスプリングバーレイと呼ばれる春に蒔く大麦を使用しているのに対し、こちらは冬蒔きの大麦も併せて使用しています。これにより、独自のフレーバーが得られると考えられています。
② Mash Conversion Techniques
 麦芽の粉砕の際、多くの蒸留所が導入しているローラーミルではなく、ハマーミルと呼ばれる機械を使い、さらにマッシュタンにはマッシュフィルターと呼ばれる装置が付いている。これらは、よりクリアなウォートを取り出すための工夫で、それにより、よりグラッシーなアロマが得られるとしている。ちなみにこのハマーミルとマッシュフィルター、こちら以外にも導入している蒸留所が一箇所だけあり、それはティーニニック蒸留所です。グラッシーなアロマ。。なるほど!
③ Unique Yeast Recipe
 実験に実験を重ねた結果、とんでもないイーストの配合を考えたぜ!これらはシーズナルバーレイとの組み合わせを考えて、季節ごとにベストマッチするように変化するぜ!
④ High Gravity Fermentation
 通常よりも高い比重で発酵を促すぜ!これによってもっと多くのフレーバーが取り出せるぜ!
⑤ Bespork Stills With Double Condensers
 これはローモンドスチルと同じように、内部にプレートを設置することで、一回の蒸留でより効果的にスピリッツを取り出すことができるようにしたスチルだぜ!基本的にうちは2回蒸留だけど、将来3回蒸留もやる予定だから、このスチルは役に立つぜ!しかも、1つのスチルに対して、2つのシェル&チューブ型コンデンサーをつけてるぜ!マジ冷え冷えだぜ!

 と、後半にいくに従ってどんどんテンションが安定しなくなっていった特徴紹介でしたが、とにかく「なんかすごそう!」ということは伝わったかというところで、蒸留所敷地内に侵入していきます。こちらは、やはり新興の蒸留所としては珍しく、ビジターセンターの設置やツアーの運営なども一切おこなっておりません。

(門を超えていくと、大きな敷地が広がっています)

(道の先にあったガラス張りの建物が製造棟)

(製造棟の左手にはオフィスがあります)

 これまでの「突撃!アポなし蒸留所訪問!」の経験上、大手の蒸留所であるほど、オフィスに挨拶に行くと見せてくれない傾向が強い。まぁ、そりゃそうだって話なんだけど、ノービジターを分かってきているのだから、とりあえず不審者じゃないことをアピールするためにもオフィスに伺います。
 呼び鈴鳴らしてしばらく待っていたのですが反応がなく、あれ?まさか誰もいないの?みたいに思い始めた頃に、中から職員の方が出てきて話を聞いてくれる。
 いつものようにカタコトで見学をしたい旨を伝えるのだけれど、やはり答えは「NO」。仕方ないなーと、外から見れる範囲で写真を撮っていいか許可を取り、ばしゃばしゃやります。

(ガラス越しにスチルと思しき影が見えるが、ダブルコンデンサーやらベスポークスチルとやらまでは確認することができない)

(角度を変えて見るもやはり分からないか。。)

 最初は怪訝な様子で私のことを窺っていた職員さんも、私があっちこっち動き回って写真を撮っている様子を見て、どう思ったのか知らないが「中まで見せてあげられないでごめんよ」と申し訳なさそうにしてくれた。私のような無遠慮な招かれざる客に対しても、こうして真摯に対応してくださる所なんかはホントに、好き。私も調子に乗って、あーだこーだ質問をさせていただいたんですが「うちは少なくとも2029年まではボトリングする予定はないんだ。だからそれまではそれをミステリーにしておいた方がいいんじゃないかな?」と、なんだかんだはぐらかされてしまう。「いいね。俺はミステリーが大好物だよ。12年後にその謎を解くチャンスがくることを楽しみにしてる」と挨拶をして、お兄ちゃんとは別れます。

(奥にはウェアハウスと思しき建物も)

(原料の搬入口が右手側ってことは、建物内右側に見えるのはマッシュタンだろうか?)

(想像していたよりもとても大きな蒸留所)

 ビジターセンターもなければ、ジンやウォッカといった他のスピリッツを製造している様子もない。さらに、最短でも2029年まで、つまりは12年以上の商品しかリリースしない、というこちらの蒸留所の姿勢は。私としては、それが待ち遠しい反面、とても真摯にウイスキー作りに取り込んでいる証拠でもあるように思えて、とても好感が持てます。2029年。まだまだ先の話ではありますが、彼らのボトルがリリースされるのを、彼らのウイスキーがしっかりと熟成されるのを、尊敬を持って待つことにしましょう。
 

#InchDairnie

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