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秩父蒸留所体験記2(転載)

 (前回に引き続き、本人の許可を得て、転載します。)

ここで一旦スチルに移動をしました。ここではスチルマンの渡部さんに色々教えて頂きました。スチルの大きさが初・再留釜共に大きさが2000L、加熱方法は、スチームコイル、冷却装置は、コンデンサータイプです。

スチルのマンホールにはすでにウォッシュが充填されていて、エールビールに似た麦の甘い香りがしました。

そしてコンデンサーの説明をして頂きました。コンデンサーはシェルアンドチューブ方式を使用、コンデンサー内を水が入ったチューブが入っているのですが、水が入る所と出る所に温度計が付いています。当日のイン側の温度は22℃ この温度は季節により変動します。アウト側の温度は54℃ ここで肥土さんが面白い事を教えて下さいました。コンデンサーの冷却温度はある程度は任意で調整が出来、その際にイン側に入れる水量を上げればコンデンサー内は冷え重たい酒質に仕上がり、逆にあんまり温度を下げないとライトな酒質になる傾向との事です。境界線は、大体50℃で下回るとヘビー傾向、上回るとライト傾向。

蒸留とはスチルの形や大きさ、加熱方法だけではなく、コンデンサーの温度も影響すると初めて知りビックリしました。あとコンデンサーに使用した水は捨てるのではなく、そのまま仕込み水に使用するとの事です。
水の温度が上がっているためマッシュタン用にぴったりで、また、そのまま流す事をしない為自然環境にも優しく一石二鳥です。

そして特に初留で気をつけるポイントは「突佛」との事です。初留釜にはウォッシュが充填されますが、ウォッシュは、ろ過することなく釜に入れるため、固形分を多く含み泡が非常に立ちます。釜の温度が上がってくると、泡は急激に上がってくる為、スチームコイルに通している蒸気量を一気に落としても泡が収まらずに、その泡がコンデンサーに入ると非常に金属的な味わいになるとの事です。そして再留をしてもその味わいは中々取り除くことが出来ないとの事です。今ではスチルに付けられている温度計やスピリッツセイフに付けられている器具等で兆候が分かるから事前に釜の温度調整をする事により防ぐ事が可能なったとの事です。余談ですが、これは「突沸」をしたニューポットは、飲んだ人にしか分からない可能性が高いそうです。某有名蒸留所のニューポットに同じ味を感じた事があるそうです。

そして再度、門間さんの所へ、丁度三回目のお湯を加えている段階で、ここではお湯の温度が一気に上がり90℃でした。これは残った糖分を引き出す為、高温の方が糖分を得やすいからだと思います。そして、その間に色々聞かせて頂きました。まず、秩父蒸留所で大切な道具、ミル、ウォッシュバック、ポットスチルがオーダーメイド。もちろん、マッシュタンもスコットランドのローゼスに会社を構えるフォーサイス社にオーダーをして新品を作って貰ったそうですが、当初蓋付のマッシュタンを依頼したら非常に高かったそうで蓋はスタッフが自作した物を使っていますと言っていました。それを聞いていい意味でのアットホームな蒸留所で親しみがわきやすいなと思っていたら、「ただ蓋が熱で反るので、そろそろ新しく作らないといけないのですよ。」と門間さんが笑いながら話してくれました。そして門間さんが一番麦汁と2番麦汁を合わせたワートを冷やした状態で用意してくれました。色合いは黄濁していて甘く優しい香りがしていました。さっきより、冷たい為、より美味しく感じました。あとで冗談半分に「これをチェーサーにしてモルトを飲んでみたいです。」と話したところ「売れませんよ。」と言われました。(笑

この三回目のワートは次の日の仕込みに使用されるのですが、ここで取れたワートの量は日によって若干違うそうです。なぜなら、ドラフに吸収される水分量が品種によって違うからとの事です。あとは取れたワートの糖度が違う事によりワートの粘度が違うから、暖かいとワートは、さらりしているが、冷えると糖度が有る分ベトつくとの事です。

そして、3番麦汁は翌日しか使用することが出来ないとの事です。
理由は2つ。
1 雑菌が繁殖する可能性が高い
2 仕込むのに最適な温度から下がってしまうから
大体翌日なら60℃前後に下がっているとの事です。

ここでマッシュタンの周りが銀色の何かで巻かれているので、是を聞いた所、マッシュタンの保温性を上げるために巻いたとの事です。全てを手探りでドンドン改良して行く事により、よりよいウィスキーが出来ると肥土さんが教えて下さいました。

そして再度スチルへ。すでに蒸留は始まっていましたが、思いのほかスチル周辺の温度が高くないと思いました。2週間前に行った白州蒸留所では当日は蒸留をしていないのにも関わらずスチルが置いてある部屋に入った瞬間に暑いと思ったのに、ここでは自分が近くによっても思いのほか暑くなくスチルマンの渡部さんがスチルとスチルの間で平然と立っているのでビックリしました。

そして、初留は6時間ほどかかり、釜の温度を絶えず渡部さんが細やかに調整をしていました。そして、時折コンデンサーの温度をチェックしに走っていきます。「一度蒸留を始めたらその場から離れることは許されないのですよ。」と笑いながら話して下さいました。すでに再蒸留も行なっていてミドルカットについて教えて頂きました。ポイントは3つです。
時間・度数・香味
ミドルカットの度数 以前は、70‐63度 現在は、71.5‐63度との事です。特にスコットランドとの大きな違いは、ご存知の通りスコットランドは法律によりスピリッツセイフに鍵が掛かっていますが、(注:中には鍵が掛かっていないところもあります)秩父蒸留所は日本の蒸留所なので鍵をする必要がなく、時折、グラスをいれ香味をチェックすることが可能です。これは大きな違いです。何故なら再留液はフォアショット・ミドルカット・フェインツに分けられ、ミドルカットのみを樽詰めしますが、その際に不快の香りを識別することが容易に出来るからです。そして実際に香味を調べる事により、香りが構成されている場所の由来を知ることが出来ると教えて下さいました。そして、今回は特別にフォアショット・ミドルカット・フェインツ領域を細かくスピリッツセイフから抜いて頂き、どこの香味は、どこに由来するのかを説明して頂きました。フォアショット領域では金属的な香りが特徴で、フェインツ領域ではどんよりとした、水っぽさが感じることが出来ました。ミドルカット領域では、徐々にコクが出て特徴的で大変美味しかったです。
香味をチェックした時間と度数です。
蒸留自体は9時スタートです。
1 10:00 73.4度
2 10:05 71.7度
3 10:10 71.7度
4 10:12 71.7度
5 10:27 70.4度
6 10:42 68.4度
7 10:52 66.7度
8 11:12 64.7度
9 11:30 59.9度
3番と4番が同じ度数ですが渡部さんがこの香味ならもう少しまった方が確実に良くなると言われ、少し待っただけで抜群に良くなり驚きました。そして生涯で初めてミドルカットレバーを操作しました。切り替えるだけなので誰でも出来るとは思いますが・・・
もちろんタイミングは渡部さんが教えて下さいましたので大丈夫です。 貴重な体験をありがとうございました。

そして、フェインツ領域に入ったら一気に温度を上げて蒸留をすると思っていたのですが、秩父では絶対にそういった雑な行為はしないでミドルカットをしていた温度のままじっくり時間を掛けて0度まで蒸留をするとの事です。やはり、急激に温度を変えると味わいに変化をもたらし好ましい味わいに仕上がらないからとの事です。そしてスピリッツセイフのミドルカットをする器具のみに
なぜか緑色の物体が付着していたので、是を聞いたところ、銅と脂肪酸の化合物との事です。ただ不思議なのはミドルカットの領域に入ると不思議と緑色の物体が出てこないとの事で、「フォアショットの時はたまに小石位の大きさのがコロンって出てくるのですがね。」と笑いながら話して下さいました。

当日は何度も印象に残る言葉がありました。
特に印象に残った言葉が、「僕たちは、作り手であり、研究者でもあり、ウィスキー愛好家なのですよ。だから良質なウィスキーを作るためにいかなる努力、手間も惜しみません。」

それは、どこの蒸留所も恐らく皆同じように思って作っていると思いますが、言葉で聞くとやはり、ジーンッと来ました。

続く

#うんちく

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