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大江南北宴

 
 
 やはりこれはラッキーだというべきかも知れない。キャセイパシフィック航空を利用したわたしたちは、香港でのトランジットを経てロンドン、ヒースロー空港に向かう便で、ダブルブッキングだからと、ビジネスクラスにチケッティングされたのである。(バッカス様、感謝いたします。)長い行列を尻目に、特別な配慮で案内されて機内への通路を歩く。
 バイオレットのブラウスに、深いスリットが入った、くるぶしまである黒いロングスカートといういでたちの、アテンダントに迎え入れられる。(エコノミークラスのアテンダントのスカート丈は、膝まででしかない。)エキゾチックな小麦色の肌を持った美女である。びっしりと長い睫毛の影が、彫りの深い顔立ちにかかると、まるで深い森の秘密みたいに、分け入る者を選ぶニュアンスが生まれる。あぁ、わたしも、こんな美女として生を受けたかった。・・・望んでもどうにもならないことは、百も承知だ。カルティエのショウケースから離れるときみたいに、左右に首を振りながら、瞼をゆっくり閉じて長く尾をひくため息をついた。(もしかしたら。女性の貴女なら、この気持ちわかってもらえて?)

 『大江南北宴』とタイトルがついた、5ページにわたるメニュウを渡されて、ほどなくSupperである。

「Mr&Mrs SASAKI, Aperitifs(アペリティフ)は何になさいますか?」
「Cognac Hine Rare and Delicate Fine Champagne Please.」(コニャックをお願い)
「Yes, まだむ」
「僕には Billecat-Salmon Brut Champagne please.」(シャンパーニュをお願いします)
「Yes,サー」
きちんとグラスでサーブされる。

「Mr&Mrs SASAKI, ブレットは、ガーリックとオニオンとバターロールがありますが、いかがいたしましょう?」
「パンは、いらないわ」
「Yes,まだむ」
「僕にはガーリックを」
「Yes,サー」
見た目で敬遠したのだけれど、とりあえずは温かいようだ。

「Mr&Mrs SASAKI, まずはツナフィッシュとドライトマトとハーブのサラダです。バルサミックビネガー・ドレッシングで味わってください」
「では、カンパリオレンジをいただこうかしら?」
「Yes,まだむ」
「僕にはブラッティマリーを」
「Yes,サー」
たいていのものは、なんでも出てくる。

「Mr&Mrs SASAKI, メインはお魚になさいます?それともお肉?お魚は白身魚のフリットサフランソース、お肉はチキンのてりやきとハムとスモークドサーモンの冷製盛り合わせ、またはビーフステーキ広東スタイルですわ。いずれも、ゆでたじゃがいもと卵チャーハンと、白菜の炒め物が付きます」
「わたしはお魚と Lois Max Pouilly Vinzelles 1996 にするわ。良さんは?広東ビーフになさるの?じゃぁ、彼のワインは ch.Fourcas Hosten, Medoc Liatrac 1998 にしてね」
「Yes,まだむ」
むむむむ。なかなかの、ヌーベル・シノワである。

「Mr&Mrs SASAKI, チーズとフルーツははいかがでしょう?」
「ブルーチーズと Dow”s Late Bottled Vintage Port 1994/1995 をいただくわ。葡萄も少しくださる?」
「Yes,まだむ」
「僕にもおなじものを」
「Yes,サー」
チーズの状態がとっても良くて、ブラボーなマリアージュ。このためだけにでもビジネスクラスになったことに感謝である。

「Mr&Mrs SASAKI, デザートは、MOVENPLCKのアイスクリームです」
「続けて、チーズを楽しむわ」
「Yes,まだむ」
「僕も、アイスクリームはいらない。Johnnie Walker Black Label をもらおうかな」
「Yes,サー。ごゆっくりどうぞ」

旅はまだまだ、始まったばかりである。

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