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新刊 『ウイスキー起源への旅』 を読みました




「君はウイスキーの語源が『ウシュク・ベーハー』ということを知っているだろう。その『ウシュク・ベーハー』は、実はケルトの酒なのだ」

1990年の秋、留学先のエジンバラにある古いパブで聞いた老人の言葉に導かれ、著者はウイスキーの起源を求める旅に出ます。

蒸留酒の起源であるビールとワイン。
それらの発祥の地であるエジプト、ギリシャ、ローマ。
古代に栄華を極めた地中海周辺の酒文化を追うことから旅が始まり、中世のヨーロッパ史、キリスト教の普及と伝播、ローマ帝国の覇権と崩壊、民族の移動、気候変動、ケルト人がウイスキーの誕生にどんな影響を及ぼしたのか。
膨大な研究資料をもとに、ウイスキーの起源についての仮説を展開していきます。

著者は三鍋昌春氏。
現在、サントリービジネスエキスパート株式会社、品質保証本部部長である著者は、89年~93年から英国スコットランドにある国立ヘリオット・ワット大学国際醸造蒸溜研究所で博士号取得し、以後、モリソン・ボウモア社ボウモア蒸溜所、オーヘントッシャン蒸溜所実習、アライド・ディスティラーズ社で研修を受けます。
その後、1994年より、白州蒸溜所製造技師長、生産第1部(ウイスキー原酒生産開発)課長、ブレンダー室主席ブレンダーおよび生産第1部課長、原酒生産部長、ブレンダー室部長兼シニアブレンダー、洋酒事業部生産部部長などを歴任。
(本書著者経歴より。著者経歴は本書刊行時のもの)

今でこそ、僕らはウイスキーの起源がアイルランドだという説を知っていますし、その語源が「ウシュク・ベーハー」であり、アクアヴィテ(生命の水)に由来することを、いくつかの書籍で知ることができます。

しかし、どのような経緯でアイルランドに入ってきたのか、なぜ「ウシュク・ベーハー」がスコットランドのキリスト教修道士へもたらされたのか、ということについては、実はあまり詳しく分かっていなかったのではないでしょうか。
「なぜ?、どのように?」という疑問を持たず、「へ~そうなんだ」で終わった方も多いのでは?本書は、そういったウイスキーの起源について、様々な角度から論証し検証を重ねていきます。まさに起源を辿る旅のようです。

本書は、二部六章の構成。

第一部では、ウイスキーの起源について、様々な資料や歴史事実に基づいた著者の仮説を展開。その始まりが古代エジプトにまで及ぶことに驚きと興奮を感じます。
そして、蒸留技術の起源が原始キリスト教の誕生にまで遡ること、さらにアクアヴィテとは何なのか、ウイスキーが誕生した背景に、地中海交易や民族の移動、キリスト教の伝播が深く関わっていたことに触れています。

第二部は、ウイスキーがどのように発展していったかについて。
起源でもあるアイリッシュ・ウイスキーがどのように繁栄し、衰退していったかについて触れ、スコッチ・ウイスキーの誕生と発展について、詳細な製造工程を紹介しながら、その進化の過程を述べています。

個人的には、やはり第一部、ウイスキーの起源をめぐる旅が大変興味深いです。
古代エジプト起源の醸造酒であるビールが、どのように蒸留酒へと変化したのか。
ローマ帝国の繁栄が、どのような影響を与えたのか。
キリスト教文化の伝播と普及が、アイルランド、スコットランドに与えた影響は何か。
その結果、民族の大移動が先住民族ケルト人に及ぼした影響とは何か。
文化はどのように融合していったのか。
様々な角度から検証され、まるで歴史ミステリーを読んでいるかのようです。

本書の冒頭、旅のきっかけの辺りは、高校生の頃、父の書棚からコッソリ拝借して読みふけった、沢木耕太郎の『深夜特急』を彷彿とさせ、一気に惹きこまれていきましたよ。

文体は、やや論文調で専門的ですので少し難しい印象を持ちますが、テーマが興味深いことと、1つ1つの論点を細かく分類して紹介・説明していますので、こういった書籍の中では比較的読みやすいかと思います。

夜、自室でお気に入りのウイスキーを飲みながら、ウイスキーの起源をめぐる旅に出てみてはいかがでしょうか。

4106036568 ウイスキー起源への旅 (新潮選書)

新潮社 2010-04
三鍋昌春

第一部 起源をめぐる旅
 第一章 ビールとワイン
 第二章 蒸留
 第三章 アクアヴィテ・生命の水
 第四章 ウイスキー誕生
第二部 ウイスキーの発展
 第五章 アイリッシュの繁栄と衰退
 第六章 スコッチウイスキーの奇跡

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