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026.グレンドロナック / Glendronach

2012.04.30

 4日間過ごしたアバディーンを離れ、今日はハントリーへ。そして、その日のうちにグレンドロナック蒸留所を目指します。

 グレンドロナックは、ハントリーからバスで20分ほどのフォーグという村にあります。

 朝の10時過ぎにはハントリーに到着し、地図でももらうついでに、ハントリーの名所でも教えてもらおうかね、とか思いつつ町のインフォメーションへ。
 もらった地図に、都合良くグレンドロナック蒸留所の位置も記されていたので「ここに行きたいんだ」と、インフォメーションのおばちゃんに言ってみる。するとおばちゃん「あなた、車は持っているの?」と。
 「NO」と一言答えると「車じゃなきゃ行くのは無理よ」みたいなことを言ってきやがる。
 てやんでぇべらんめぇ、こちとらネットでバスの場所とか時間とか調べてきてんだよ!ネット世代のリアルコミュニケーション喪失症なめんなよ!と、無駄な粋がりを見せつけながら「とりあえずバスのタイムテーブルちょーだい」と、そいつをもらって、インフォメーションの真ん前にあるバス停でバスを待つ。

 しばらく待っていると、私と同じようにインフォメーションから出てきた女のコが私に向かってなにやら話しかけてくる。
 外国人+若い+女子という、私の苦手意識を刺激しまくるコンボだったのだが、彼女はそんな様子を気にもとめない風で、曰く「インフォメーションで聞いたんだけど、あなたもグレンドロナックに行きたいの?私もなの!」と。
 なんとなんと、旅は道連れ世は情け。あっという間に、じゃあ一緒に行きますか、という話になって、突然の連れ合いが出来る。完全に頭の中で、ドラクエで仲間が新しく加わったときのBGMが流れましたもん。

 エリンという名の彼女はドイツからやってきたとのこと。ウイスキーが好きで、いままでも何度かスコットランドに来たことがあるそうで、去年はオークニーに、その前はアイラにも行ったことがあると。今回の旅は5日間でスペイサイド近辺をまわる予定だそう。挨拶くらいながら日本語も話せて「なんで喋れるの?」と訊ねたら「日本のアニメや漫画が大好きなの!」と。ヨーロッパに於ける、オタクカルチャーの席巻を目の当たりにした気分だった。そういえばインヴァネスのホステルで、隣のベッドから日本語が聞こえると思って見てみたら、隣のオーストラリア人がパソコンでアニメ(エアギア)を見ていたこともあった。まぁそれはともかく。

 そんなこんなでまずは一緒にバスに乗ってフォーグまで。問題はフォーグのバス停から蒸留所までは3マイルほど離れているということ。ちゃきちゃき歩いて1時間くらいだろうが、まぁ歩けない距離ではない。実際私は歩くつもりでいたのだが、エリンに「バス停からはどうする?俺は歩くつもりだったんだけど」と訊ねると「遠いでしょ?ヒッチハイクしましょ」と、こともなげに親指を立てる。

 確かにここに至るまで、いままで何人かヒッチハイカーの姿を見たことはあった。ホステルではヒッチハイクで移動してるって人とも知り合ったりもしたが、如何せん私はぬくぬくと育った日本人。ヒッチハイクなんて危ないイメージも強かったし、それこそそんなに簡単に捕まるもんでもないだろう、プラカードも無いし、と思いながらも、とりあえずエリンについて歩き出す。

 ウイスキーのことやアニメのことなんかで話もいろいろ出来た。ドイツ人なのにビールが嫌いって言ってたのが楽しかった。「ドイツ人なのに」ってなんだ、って話だけど。

 そんな話をしながら歩みを進めていたのだが、そこに一台の車が近づいてくる。
 すると、その音を察知したエリンはくるんと身体を反転させて後ろを振り返ると、すっと親指を立てる。俺も焦りながら控えめに親指を立ててるんだかなんなんだか分からないような拳を作ってみたのだけれど、車はスルー。
 なんとなくホッとした様な気もしたけど、エリンは何でも無い顔で、また歩き出す。
 そんなこんなで蒸留所までの道程を歩きつつ、後ろから車の音が近づいてきたら振り返って親指を立てる、というのを何度か繰り返しつつ進む。
 私もある程度は慣れてきて(エリンに「スマイル!」と怒られた)だんだんと大胆と車がやってくるのが待ち遠しくなってくる。
 が、やはりあまり捕まってはくれない。しまいには蒸留所の煙突が見えてきて「あれじゃない?」「だと思うね」「意外と近かったね」みたいなことを言い合う。盆地のように低くなった平原に建つきれいな蒸留所の姿が、はっきりと分かるようになった頃、一台の車が止まってくれる。
 交渉などは全部エリンがしてくれて、私は隣でニコニコ笑っていただけだが、行き先を告げると「蒸留所まで!?すぐそこじゃない」と笑いながら乗せてくれた。若い奥さんでした。

 あっという間に蒸留所に着き、一緒にツアーの受付を済ませる。彼女は英語も堪能なようで、或いは語学力の問題ではないのかもしれないが、とにかくよく会話をする人で、ツアー中もガイドのおっちゃんと楽しそうに話していて、なんとなく疎外感を覚える。「ここまでヒッチハイクで来たの」「そりゃ大変だ、帰りはどうするんだい?」「ヒッチハイクか、じゃなきゃ歩くわ」「そうか、ちょっと待てよ。確か君は今日14時までだったよな」と、しまいにゃ、スチルハウスで作業していた男性を紹介してもらって、仕事終わりのそのスチルマンに帰りを送ってもらう約束までしていた。恐るべしである。

 そんなこんなで、ツアー終了後もガイドさんと楽しそうに話している彼女を見て、私は相槌しか打てない。英語喋れるようになりたい。と疎外感を膨らませつつ、先ほど、約束していたスチルマンの男性が仕事を終えて迎えにきてくれるまで、試飲グラスをもてあそんでいた。帰りの車内でも彼女はよく喋っていた。うむむ。

 というわけで、ハントリーへ帰ってくる。お分かりかもしれないが、個人的にどたばたしたツアーだったので写真を撮るのをすっかり忘れていた。なぜか数枚だけ撮っていたのがこちら。


(整然と並ぶウォッシュバックと)


(大きくきれいなマッシュタンだけ)

 楽しく貴重な体験をさせてもらったのだが、ただ楽しんでいるだけもいられない様なコミュニケーション不全の問題を抱えて、少しく暗くなりつつも、エリンとはハントリーで別れる。「またストラスアイラ辺りで会うかもね」なんて言いながら。

#Glendronach

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