2012.05.15
さぁ!
お待たせいたしました!遂に「英国唯一の"政府公認"密造蒸留所」ロッホユー蒸留所の内部へ潜入です!
(ガレージを改造した手作り感溢れる看板が最高!)
(扉をくぐると、まずはご覧の小さな部屋へ。こちらで簡単に蒸留所の紹介をうけます)
オーナーのジョン自らガイドを務めてくれたこのツアー。入り口の小部屋で説明を受けた後、遂に、となりの部屋への扉が開かれます。
思わず目を奪われてしまうような光景がそこにはありました。
「ロッホユー蒸留所へようこそ」というジョンの台詞の通り、そこはまさしく密造所というにふさわしい空間。
手作り感満載のひょうたん型のスチルが2基。スチルはボディとネックが上下で着脱式になっており、さらにはラインアームも引っこ抜くことができる。
そのバラバラになったスチルのボディを使って、まずは糖化、マッシングの作業を行います。
つまりマッシュタンというものはなくて、あくまでスチルの胴体を使って糖化の作業を行うということです。
そのマッシングの工程自体も非常に面白い。
従来の蒸留所では粉砕したモルトと、60度ほどに熱したお湯とを合わせて糖化を促すのですが、こちらの蒸留所では、まず最初にグリストと水をいっしょくたにスチルに放り込みます。それから加熱して水をグリストをかき混ぜながら沸かしていくという方法。撹拌の方法も当然異なります。従来の蒸留所であれば、マッシュタンの中に撹拌用のでっかい歯車なんかがあって、そいつがぐーるぐーるまわって撹拌するわけなんですが、こちらのスチルにはそんなハイテクなものはついていません。ならどうするか?答えは簡単で、その辺に置いてあった木の棒で直接かき混ぜるのです!まるで魔女が大鍋で薬を作っているがごとく、あったかくなってきたグリストの中に木の棒をつっこんで、ひたすらぐーるぐる。これにはさすがに笑いました。
しかし、笑いが出るのはまだ早い。
糖化を終えた後の手順はなんだか分かりますか?分かりますよね、発酵です。
その発酵のため、ウォートと呼ばれる麦汁を取り出すのですが、ではどうやって取り出すか。
ここでまた従来の蒸留所のやり方をおさらいすると、マッシュタンにつながったパイプを使って、グリストを除いてウォートだけを取り出すわけです。濾すわけですね。
さぁ、ここは地の果てロッホユー。どうするかというと、糖化が終わったスチルの中にあるウォートを、グリストもろともでっかいビーカーみたいなもので大胆に掬い上げます。
そして、それをざるのような器具と布巾の上に、まるでかつお節でとった出汁を濾すかのように、大胆に広げ、よじり、グリストごと搾り取ります。もちろん手で、です。ぎゅーって。もう大笑い。
しかししかし、まだまだ笑うのは早いですよ。ウォートがとれたら次はどこへ行きます?そうですね。ウォッシュバックです。
ご想像の通り、この密造所にはウォッシュバックなんてシャレたもんは存在しません。それでは何を使うのか?きっとオーナーのジョンは悩んだと思います。発酵にちょうどよくて清掃も簡単でなにかいいものないかなー、と考えたことでしょう。そして、思いついた最善のアイテムがこちら。ゴミ箱です。
実際にスコットランドに行ったことある人は分かると思うのですが、こちらのゴミ箱は非常に大きくて、それも各家庭がゴミがたまるとごろごろとそれを家の前の通りに並べて、そこからゴミ収集車が回収していって、またごろごろと家にもって帰る、という代物なんですね。
しかし、ウォッシュバックといえば、モルトのキャラクターを決める要因の大事な一つです。
オレゴンパイン?ステンレス?いいえ、プラスチックです。ハンパじゃありません。
そしてようやく蒸留へ。着脱式のラインアームをセットしてコンデンサーに繋ぎ、直火で加熱。
ローワインがたまったら、また同じスチルにいれ直して再加熱するという二回蒸留です。
そうしてできたニューポットは、さらにもう一つ扉でしきられた奥の部屋、ウェアハウスへと運ばれます。
これが、一応土と石で作られた、伝統的なダネッジ式といえなくもないのだが、如何せん樽の小ささ、そして7つほどという少なさから、一切ウェアハウス然としていない。部屋の床になんか樽が転がってるくらいなもんである。
こうして数週間から数ヶ月の熟成を済ませた後は、例のバーに樽ごと持っていって、お客さんに樽から直接のウシュクベーハを提供しているのである。
こうしてホテルに戻った後は4種のカスクとニューポットを試飲。一番衝撃的だったのは何よりもニューポットで、これまで飲んだどんなニューポットよりもアルコール感が柔らかく、甘みもモルトの優しい甘みが出ていて、ニューポットに感じるどぎつさとは無縁だった。
ほかにもスパイスドラムカスクはココナッツのようなフレーバーが面白かったし、デメララは濃いシュガーのような甘みが出ていた。シェリーが一番ウイスキーっぽい味わいになっていてジョンもこれが一番のお気に入りだそうだ。2週間の熟成で品評会に出した時「2年ものくらいの熟成」という評価を受けたんだそう。「イングランド人は馬鹿だから」と辛口のスコティッシュジョークも飛び出し、とても満足のツアーでした。
ん?蒸留所内の写真はどうしたって?これが、何を隠そうツアーの最中は、そのユニークなシステムの説明についていくのに必死で、所内の写真を撮っているほど暇ではなかったのです。
しかし、ご安心を。試飲も終えて、一緒にツアーをまわっていたドイツ人二人組が去った後、ジョンに「良かったらもう一度中を見せてくれない?」とお願いした所「いいとも」と、蒸留所の扉を開けてくれ「満足したら声かけてくれよ」とそのままホテルに戻っていく。おかげで、一人。心ゆくまで所内を楽しむことができました。
というわけで、本当にお待たせいたしました!これがスコットランド伝統のウシュクベーハを造る密造所だ!!
(どどどーん!)
いやぁわくわくしますね。それではここからは写真付きで工程を追っていきましょう。
(左のが蒸留用のスチル。右のがいわゆるマッシュタン代わりのスチル。どちらもジョンが「友達に作ってもらった」という手作りの品)
(右手のスチルの上部を持ち上げて見ると、ご覧のようにグリストが水にひたひたになっております)
(こちらの棒が、マッシングの撹拌用のかき混ぜ棒)
(そしてこちらの器具でウォートを搾り取ります)
(でっかいビーカーと布巾と押し棒みたいなもの)
(そしてこちらのポリ製ゴミ箱の出番です)
(中身はこんな感じ。確かに清掃は簡単そう。下に車輪がついているので移動も簡単。ホントか冗談かは分からないけど「発酵の際に生じるガスの問題もこいつなら簡単に解決できるんだ」とのこと)
(そしてスチルへ。注目すべきは、ラインアームの途中がガムテープで補修されている所)
(こちらがコンデンサー。ちょろちょろとポリタンクに蒸留液が流れます)
(となりの石段は密造所の雰囲気を再現したものだそう。突如やたら近代的なモーター音が響いたかと思ったら、石段の上からちょろちょろと水が流れる、という演出も)
(ちなみにその隣の倉庫にはシンプソンズ社製のモルトが積まれていた)
(現在はマッシュタン代わりに使われている方のスチルの隣にも、一応コンデンサーはあった。着脱式のラインアームが上に乗っかっている)
(そして衝撃のウェアハウスへ!)
(あまりに暗かったのでフラッシュをたいて撮影。オクタブってレベルじゃない小ささの樽)
(片隅にはまるで実験室のようにごちゃごちゃとした器具が並んでいた)
(最後にもう一枚ぱしゃっと。屋根にある緑の蔦っぽい植物も、密造所っぽい雰囲気を出すための飾り。意外と観光っぽいところもある)
さて。いかがだったでしょうか?
本当に、今までの蒸留所巡りで得たものが覆されるような蒸留所でした。みたこともない密造酒造りは驚きの連続。本当に楽しかったです。
本島の果てという、非常に行きにくい上にこれ以外は何も無い場所にありますが、行って損はない場所でしょう。
フランシス曰く「5日あれば仕込みから樽詰めまで、全部の工程が経験できるわよ」とのこと。
今回は2泊だったのですが、いつかはその体験もやってみたいと感じました。みなさんも是非!
#Loch Ewe