MENU

070. スペイバーン / Speyburn

2012.05.12

 グレングラント蒸留所のツアーを終え、向かうはロセスの町にある4つの蒸留所のラスト、スペイバーン蒸留所です。こちらは私にとって、この蒸留所巡りの旅の中でも、忘れがたい経験を伴った蒸留所。行く前までは、地味な蒸留所だよなー、くらいの感想しかなかったんですがね。


(ちなみにロセスの町には、4つの蒸留所の他にご覧のような工場もある。何の工場かと思ったら、外壁に「ANIMAL FEED MANUFACTURERS」とあり、ドラフを集めてのダークグレイン工場のようなもの。そういえばグレングラントでそのような説明もされていた)

 ロセスの町を北へ突き抜け、幹線道路B9015沿いを歩いて行くと、ほどなく左手側に脇道が現れます。


(脇道の入り口には、どことなく心許ない看板が立っている)

 看板はあるのだが、蒸留所の姿はまるで見えない。本当にこっちでいいのかな。。とか思いつつ、脇をきれいな小川が流れる静かな道を進みます。
 この道が本当にきれいで、すぐそこが町だとは思えないくらいのハイキングコース。林に小川に鳥の声、といった爽やかな道を進むこと数分。ようやく蒸留所が姿を現します。


(林道に現れる白壁の美しい建物。設計は、蒸留所建設といえばこの人、チャールズ・ドイク氏によるものです)

 なんとなくスペイバーンは見せてくれないだろうなぁ、と感じながら、そのまま所内へ。
 写真は蒸留所の裏手にあたる様子で、しばらく所内をうろついた後に、しっかりとした門のある正面玄関に到着する。
 中をうろついている間に、何台かの監視カメラの姿を確認し、リンクウッドでの出来事を思い出し、少しくびびりながらもふらふら。


(こちらが、蒸留所の正面側から。右手の柵の向こう側にある登り坂を上っていくと正門がある)

 さて、どうしようかなー。とりあえずオフィスに行く前に外観だけでも撮っておこう、とぱしゃぱしゃ。すると、なにやら止まっていたタンク車のあたりから、ガゴゴゴゴという大きな音が。


(大きな音に反応してみて見ると、トラックの上にある排出口から、いままさにドラフがドバドバ出ている所でした)

 おっ。ちょうどドラフを排出しているぞ、とぱしゃぱしゃ写真を撮っていると、上の写真にもある小さな窓から、いきなりおっちゃんが出てくる。まずかったかな?と思いつつも、いつもの調子で「見ていー?」と訊ねると、おっちゃん「5分待ってな、下に行くから」と。大人しく待っていると、しばらくしておっちゃんが出てきて、そのまま中へ案内してくれる。

 なにやら色々、説明をされたのだが、例によって英語は少ししか理解できない。ただ「ナイスタイミングだったな」と言ってこれから始まるマッシングの様子を見せてくれた。どうやら、今ちょうど1サイクルが終了し、これからまたもう1サイクルが始まる所だった。


(勢い良くマッシュタンの中に投入されるグリストと温水)

 おっちゃんは、作業をしながらも私に色々と教えてくれた。
 マッシングの工程も、もう何度も見ているので大体のことは分かっているつもりでいたのだが、彼とのツアーは、適温やタイミング、それらのコントロール法など、より実地的というか、まぁ実際に実地なわけなのだけれど、ともかく実際の作業手順に従って操作方法とかまで教えてくれた。

 
(マッシュタンを真上から見るとこんな。銅色が美しい)

 ここでのツアーは、実際におっちゃんが作業しているのを、私が後ろからついていって、その都度、なにやってんの?これはなに?と訊ねることが出来た。
 通常のツアーのように、ミルマシンからスチルハウスまでの製造の過程を追うのではなく、あっちいってこっちいって、またあっちいってこっちいって、と行ったり来たりするのだが、それが実際の現場っぽくて楽しかった。
 ちょうど、私がお邪魔した時間帯は、色々な作業がばたばたとする時間帯だったようで、スチルの点火にミルマシンの起動、マッシングやウォッシュバックなど、あっちいってこっちいってが激しかったのだが、今にして思えば、わざわざ私のために色んな所の作業を見せていてくれたのではないかと思う。
 基本的には全てコンピューターで管理しているらしく、タンルームの片隅にあったモニターを指し示しながら「ほら、これが今のスチルの様子。これがこうなったら自動で切り替わるんだぜ」みたいな説明までしてくれた。
 コンピューターで管理しているとはいえ、いまこの時間に蒸留所にいるのは彼一人だけだそう。「まったく、土曜日だっていうのによー」みたいな感じでおどけたような表情をしながら作業をし、私が「蒸留所巡りの旅に来たんだよ。3ヶ月くらいかけてまわるよ」みたいなことを言ったときも「3ヶ月だって?そんな長いバケーション、取ろうとしただけですぐコレだぜ」と首を切るジェスチャーをしてみせたりもして、楽しいツアー。


(ウォッシュバックは木製のものが6槽)


(スチルはどっしりとしたものが計2基)


(ラインアームは屋外へ向けて伸びている。こちらは再留釜)


(こちらが初留釜)


(そしてこちらが屋外のワームタブ。湯気が立っているのが分かる)


(初留の方は再留よりも大人しい)


(屋内に戻ってスチルの温度計。再留が83度くらい、初留は100度近くで沸かしている)


(そして最後はスピリットセーフの前でぱちり。案内してくれたアンディも一緒に)

 そんなこんなでとても丁寧なツアー。最初は少し慌ただしかったけれど、一通り作業を終えると、コンピュータの前に座って「これで一時間は、ぼけっとしていられるよ」と落ち着いた表情。
 世間話をしていると「面白いものを見せてやろう」みたいな感じで、一旦建物の外へ。はて?どこへ連れていってくれるのやら、とわくわくしていると「今はもう使われていない」という古い建物の中へ。


(木造の古い建物。なんでもかつて行われていたモルティングの建物らしい)


(はしごで三階建てくらいの建物を上る。各フロアにモルティングの設備が備えられている)


(同じ建物の別フロア。モルトビンかな???)


(そしてこちらが注目のドラム式モルティング設備)

 こちらのスペイバーン蒸留所は、1900年当時、まだフロアモルティングが主流だった時代に、初めてこのドラム式モルティングを導入した蒸留所とのこと。いまでは、製麦はストップして業者からの買い入れとなっているが、こちたの設備は歴史的な価値が高いということで、保存指定を受けているとのこと。まさしく博物館のような雰囲気です。


(「PNEUMATIC MALTING SYSTEM」というロゴ)


(ドラムの正面)


(分かりづらいが、モルティングの工程を経た麦芽は、右手にあるコンベアで上の部屋へと運ばれます)


(そしてこちらはキルンの内部)


(発芽した麦芽をこちらで乾燥して成長を止めます)


(屋根を見上げるとこんな感じ)

 実際の蒸留所を余すところなく見せてくれた上に、こんな博物館まで見せてくれて、本当に感動しきり。その上「ウェアハウスは鍵が無いから見せられないんだ」、とすまなそうな表情までしてくれて、本当に良くしていただいた。

 最後は、終業後はエルギンの家に帰るという彼に「どうする?それまでここにいるか?」と言っていただけるも、もう一カ所行きたい蒸留所があったので、その申し出には泣く泣く辞退。
 全部で90分の贅沢すぎるツアーを堪能し、ロセスの町を後にします。

#Speyburn

この記事を書いた人