MENU

060. バルメナック / Balmenach

2012.05.10

 さて。クラガンモアのツアーを終えたはいいが、問題はこの後である。朝一のバスに乗り損ねたために、本日訪れる予定だったもう一つの蒸留所、バルメナック蒸留所まで行く公共交通機関が無い。正確には無いことも無いのだが、この日は移動日で、バルメナックまで行った後にエルギンまで一気に行ってしまうプランのため、行ったが最後、戻ってこられなくなってしまう。クラガンモアからだと、エルギンに向かうなら北東方向に、バルメナック蒸留所に向かうなら南西方向に、と、まるで逆方向に進まなくてはならない。ここは大人しくバルメナック蒸留所を諦めようか、と思いつつも、未練たらたら、バルメナック蒸留所のあるクロムデールの町へと続く幹線道路、A95をとぼとぼと歩きます。

 エルギン方面のバスが来るまでの間だけでも、と道路脇を行くのだが、朝から降り続いていた雨は止む気配を見せず、最早、親指を立てる気力さえ無い。
 ずたぼろの濡れ鼠状態で重い荷物を抱えて大変そうに歩いて、誰かに「アーユーオーケー?」って言ってもらおう、っていう激甘、完全受け身のヒッチハイクである。

 しかし、実際に雨の中。重い荷物を担いで歩道も無い幹線道路の脇を歩いて行くのはかなり厳しいものがあって、演出しなくとも悲愴感が漂ってくる。
 すると、トーモア蒸留所を過ぎた辺りで、後ろから私を追い抜いていった一台の車が。中からおっちゃんが手招きして乗せてくれることに。

 まさか、こんな濡れ鼠の私を拾ってくれる人がいるとは思えなかったので本当にびっくり。しかし、おっちゃん。「俺はさっきもお前を見たぜ」と。おそらくはクラガンモア蒸留所のツアーに行こうか、先にバルメナックに行こうか迷ってふらふらしている時に、その姿を見られていたのだろう。随分長いことふらふらしている奴だ、と思い不憫に思って乗せてくれたようだ。激甘作戦は成功と言えよう。


(クロムデールまでは10マイルほど。歩きだと3時間半。車なら10分の距離です)

 おっちゃんはかなり訛りが強く、ほとんど何を言っているのか分からない。私の英語もカタカナなので、お互いに何を言っているのか分からないような感じ。精神的に疲れていたのもあって、乗せてくれたのは嬉しかったのだが、コミュニケーションをとるのに気苦労してしまった。最初「クロムデールまで」って言ったのすら、おっちゃんは分からなかったみたいで「アヴィモアまでか?」と返されて、つい「違う、もっとこっち」と日本語で返してしまうほどに疲れていた。

 テンションが低い私を乗っけてしまって、おっちゃんも気まずくなったのか、ラジオをつけたり鼻歌を歌ったりして、こっちもこれではまずいと、なんとか話しかけたりするのだが、あまり話も弾まず、気まずい雰囲気の中クロムデールに到着。おっちゃんにはホントに悪いことをした。ヒッチハイカーとしてマナー違反だなー、と、すっかりいっぱしのようなことを考えながらクロムデールの町を散策です。

 蒸留所自体は町外れにあるので、そこからまたしばらく歩くことに。地図とコンパスを片手に方向を確かめていたら、民家の庭先からおっちゃんがこちらを窺っている。会釈をするような感じで挨拶をして「蒸留所に行きたいんだけど」と言うと「こっちの道であってるぞ」と教えてくれる。いかにも、な田舎町で、いかにも、な私のような他所者の目的なんて、どれも同じなのだろう。「ディスティラリー」って単語を発した途端に、おっちゃんの警戒心みたいなものが氷解したのが分かった。

 おっちゃんの教え通りに道なりにしばらく行くと、ようやく看板が見えてまいりました。


(バルメナック蒸留所。バルミニックと表記することもありますが、前者の方が近いかなー、と)

 看板を超えてしばらく行くと、蒸留所が見えてまいります。とりあえずオフィスのような建物を発見したので、声だけでもかけてみようかなーとチャイムを押し、出てきたおっちゃんと交渉。が。あえなく「ソーリー、ノービジター」と言われてしまう。
 そんな!せっかくここまで来たのに!乗せてくれたおっちゃんの厚意を無駄にするとは出来ない!と粘るも、結局見せちゃくれないことに。このまま食い下がってたまるかと、とりあえず外からだけなら見てもいい?ってことを了承得て回りをふらふら。


(ウェアハウス)


(クーパレッジと書かれた扉も)


(その前には樽が乱雑に放り投げられていた)


(立派な煙突)


(樽がいい配置で置かれていた。奥の扉の向こうは。。。)

 と、ふらふらしていると「STILL HOUSE」と書かれたドアを発見!よっしゃ!と思い、狭い外階段を上って、こっそり中をうかがってみます。


(これはっ!!)


(どどーん。立派なボール型のスチルが、整然と6基)

 中には作業しているおっちゃんの姿も見え、声をかけようかどうか迷ったのですが、逡巡した後、オフィスで「中はダーメ」と言われていたこともあって結局こっそりと。

 こっそりながらもスチルも見ることが出来、なんとかここまで来た甲斐はあったというもの。満足して蒸留所を後にしました。


(蒸留所全景。ノービジターということもあるだろうが、全体的に薄汚い印象の蒸留所だった。失礼)

#Balmenach

この記事を書いた人