2012.05.17
この日は、アビンジャラク蒸留所に行く意外に予定はない。昨日もらったバスのタイムテーブルによると、行きのバスは12時出発ということなので朝はとてもゆっくり。ホステルで時間ギリギリまでぐだぐだし、ホステルを追い出されてからはストーノウェイの街をふらふら散策。天気もよく、景色も素晴らしいものがあって、時間つぶしでふらついたにしてはかなりいい観光が出来たのだが、今回の記事ではそこは省いて、バスに乗る所からスタートしようと思う。
時間前にバスステーションに到着し昨日冷たくあしらわれた受付に行って、いくつかあるバス乗車口のうち目的のバスが何番に到着するかを確認すると、おとなしくその場で待つことにする。
ほどなく時間となり、到着したバスを見て驚いた。
というか、最初はそれがバスだとは気付かず「なんでバスじゃない車がバス停に止まってきてんだろう」とか思っていたほどで、たまたま私以外にもバスを待っている人がいて、その人が乗り込んで行って初めて「あぁ!これがバスなのか!」と気付いたほどである。
というのも、その時やってきたのは、車体側面におもいっきり「POST OFFICE」と書かれた赤いミニバス。アイラなどではいわゆる「郵便バス」がバス代わりに地元の人の足となっている、という話は知っていたのだが、まさかここルイス島でもポストバスが走っているとは知らなかった。他の乗車口に到着しているバスは普通のバスだし。
戸惑いながらバスに乗り込むと、運転席・助手席を含め全14席の小さなバス。しかも前方の2列6席に荷物が積まれており、実質乗客のスペースは後ろの2列のみという有様。
半分笑ってしまいながら、運転席にいるおばちゃんに目的地を告げる。「蒸留所に行きたい」と言ったのだが、おばちゃん曰く「このバスは蒸留所までは行かないよ」と。
そういえば、昨日のインフォメーションセンターのお兄ちゃんも、バスは蒸留所までではなくて、蒸留所付近の「ティムズガーリー」というバス停(?)までしか行かない、というようなことを言っていたような気がするので、その旨確認し、とりあえずティムズガーリーまで行ってもらうことに。
さて、ここからの道程が何とも厳しかった。
山あり谷ありで路面もぼこぼこ。とにかく跳ねる跳ねる。
さらにはポストバスとしてはわれわれ乗客よりも荷物の運搬の方が本職みたいな所があるので、当然、道の所々で寄り道しては家々に荷物を運んで行く。
しかし、この道程である。なんでこんな所に家があるのか、と感じてしまうほど荒涼とした土地で、バスが進むに連れて、当初「ヒッチハイクでいけるっしょ?」とか「レンタルサイクルとかあれば楽勝じゃね?」みたいに思っていたのが、とんでもない考えだったと気付かされる。
バスがどんどんとストーノウェイから離れて行くに従って、これは途轍もなく辺鄙な所にある蒸留所だな、と実感していくと同時に、いままでの移動では感じたことのなかった「帰りのバスに万一乗れなかったら死ぬぞ、マジで」という不安がむくむくと盛り上がってきて、どんどん真顔になって行く。
そうこうしている間に、バスはティムズガーリーに到着。おばちゃんは呑気に「さー到着よー」と私に告げる。
もう英語不得意とか言ってらんない。とにかく帰りのバスの場所だけは正確に聞いておかないと、マジで遭難、死、である。一生懸命「帰りのバスはどこに来るの?」と「by shop」の謎を解き(実際バスが止まったのはスーパーマーケットの正面だった)、ついでに蒸留所までの道程も聞く。
おばちゃんは一本道の先を指差しながら「多分3マイルくらいはあるからヒッチハイクでもすれば?」と教えてくれる。バスの運転手さんまでもがヒッチハイクを勧めるっていうのはどうなんだろうか、と思いつつも、サンキューと手を振ってさくさく歩く。
3マイルなら1時間とかからず行けるはずである。まかり間違っても、帰りのバスの時間に間に合わない、なんてことはあってはならない。
さて、ここらでバスの中で私がどんどん不安になっていったという周辺の光景をお見せして、私の不安を想像していただこう。バスの車窓を流れる景色がどんどんこんな景色になっていくのである。
(この世の終わりか)
(とにかく荒涼としたナショナルジオグラフィックな世界)
(風もとても強かった。途中、風力発電の風車があったのだが、風車ときいてイメージする牧歌的な印象はそこにはなく、荒れ狂う暴風で狂騒的な速度で回転し続ける羽根がとんでもなく恐かった)
(ところどころに池がある)
(ヒースに覆われた大地)
(途中、ドッドッドッという激烈な足音が後方から迫ってきて、恐慌状態で振り返るとこいつらが猛然と私の方向へと走ってきていた。なんの音かとホントにビビった。柵があって良かった)
(アトレーユがはまった「悲しみの沼」はきっとこんなん)
(無骨な景色の中に、完全に風化した建物がちょくちょくあった。バス停かなにかの名残のように感じたが、どうだろうか?)
(見渡す限りの不毛の土地)
(と思いきや、意外や意外、白い砂浜なんかもあって、標識には「beach」の文字も確認できた。極寒だったけど)
「世界の果て」と言われる所以を少しは感じることが出来たでしょうか?実際に行ってみると、まばらではあるが人家がゼロというわけでもないし、ビーチはあるしで、あまり「果て感」はなかったですが、それでも確かにナショナルジオグラフィックの世界で、かなり感動的でした。
そんな感動も、時間に追われていたのでは噛み締める余裕などございません。
ちゃきちゃき歩いたからか、30分も過ぎた頃には蒸留所と思しき建物を発見!
(あの赤い屋根はまさしく!)
ということで次回!世界の果てにある蒸留所、アビンジャラクをご紹介です!
#Abhainn Dearg