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099. スプリングバンク / Springbank

2012.06.05

 ケイデンヘッドのウイスキーショップで受付を済ませた私は、スプリングバンク蒸留所へ向かいます。場所は受付を済ます前に確認してあったので、迷うこと無く到着です。


(建物の壁には、同蒸留所で造られている「スプリングバンク」の他に、ピートレベルや蒸留回数を変えて製造されたブランド「ロングロウ」と「ヘーゼルバーン」の看板も)

 蒸留所までついたはいいが、どこで待っていたらいいのだろう?と一人入り口付近でふらふらしていると、ほどなくおっちゃんが声をかけてきて「そこの部屋で待ってな!」と。いわれるがままに部屋に入って、大人しく待ちます。

(壁に飾られていた鏡面など)

 私以外にも数組のツアー参加者がいるらしく、開始時間の10時を迎えるころには部屋も賑やかに。少し時間を過ぎたころに先ほどのおっちゃんがやってきて、いざツアー開始です。

 こちらの蒸留所は、数ある蒸留所の中でも一目置かれる存在。というのも、製造に於いて伝統的な製法を頑なまでに遵守しており、また、そのこだわりひとつひとつが、他の蒸留所では見ることの出来ないような独特なやり方だったりするのです。幸い撮影もOKとのことだったので、写真を多めにお伝えしましょう。

(こだわりその① フロアモルティング。いまでは数えるほどの蒸留所でしか行われていないフロアモルティングを行っております。床一面に敷かれたモルトの絨毯は、とてもきれい)

(ガイドのおっちゃんがお手本を見せてくれた後に「やりたい人ー?」というのでもちろん挙手。ボウモア蒸留所でも体験させてもらいましたが、この鍬が意外と重くて、引っ張って歩くのも結構な重労働です)

(キルンの釜。石造りの重厚な壁面に赤い色が映える)


(ずらりと並ぶモルトビン。おっちゃんが「それぞれのモルトビンの中にどんなモルトがどれだけ入っているか、最新鋭のコンピュータで管理されてる。そのコンピュータがこれだ」と言ってみせてくれたのが、こちらの黒板。めっちゃ手書き。めっちゃアナログ)

(モルトミルはお馴染みのポーテウス社製。しかし、かなり年季が入っているのか、よそで見かける赤いボディはくすみきってしまっている。ポーテウス社製のモルトミルは頑丈でまったく故障することが無かったので、全ての蒸留所に製品が行き渡ると、需要がなくなってしまって会社が衰退していった、という笑い話のような逸話があるが、このモルトミルを見ると、さもありなんといった感じである)

(こだわりその② オープンエアのマッシュタン)

(オープンエア式の蒸留所も一般的には少ない)

(こだわりその③ もろみの低アルコール度数。ウォッシュバックはカラマツ製のものが全部で6槽。ここで面白いのは、イーストを加え麦汁を発酵させて作り出すもろみのアルコール度数が、多くの蒸留所が7~8%ほどなのに対し、こちらでは4~4.5%ほどと極端に低いこと)

(こだわりその④ 2.5回蒸留のスチル。左から初留釜、再留釜1、再留釜2だ)

 スプリングバンクの最大のこだわりであり、最もユニークで独特な製法が、この2.5回蒸留でしょう。
 通常、スコッチモルトの蒸留回数は2回ないしは3回であるのに対し、そのどちらでもない2.5回蒸留とはどういうことなのか。それは、一回目の蒸留で取り出した液体(ローワイン)の80%をまずは再留釜1へ。そこで2度目の蒸留を終えた液体(フェインツ)とローワインの残り20%とを合わせて再留釜2へ。そうして出来た液体(スピリッツ)は、一部は3回蒸留、一部は2回蒸留となるので、2.5回蒸留となるわけです。複雑!
 さらに最初に申し上げた「ロングロウ」「ヘーゼルバーン」という別ブランドでは、この蒸留釜もそれぞれ単純な2回蒸留、3回蒸留として使われるので、作り出すモルトによってスチルの使い方をそれぞれ変えなくてはいけないというユニークさです。


(こだわりその⑤ 直火炊きの初留釜。二つの再留釜は間接加熱でしたが、初留釜だけは直火。覗き穴からは煌々と燃え上がる炎が確認できました)

(こだわりその⑥ ワームタブ&コンデンサー。通常、蒸留液の冷却方法はワームタブかコンデンサーのどちらかを使用するのですが、こちらの蒸留所では両方を併せて使用しています。それも初留釜と再留釜2はコンデンサー、再留釜1だけはワームタブというみょうちきりんな使い方です)

(そしてスピリットセーフ)

(どういうわけか分からないがスピリットセーフの蓋が開いており、そこに直接グラスをつっこんで、まさしくできたてのニュースピリットを試飲させていただくことが出来た。しかし、これって大丈夫なのか…?)


(スピリットセーフのすぐ後ろには、それぞれのレシーバーが備えてある)

(そしてフィリングストアへ。巨大なタンクからスピリッツを樽へ流し込みます)

(敷地内には空き樽が文字通り山と積まれている)

(ウェアハウスは迫力のラック式。散々こだわりこだわり言ってきて、ここはダネッジ式じゃないんだ、とも思いましたが、これはこれでスプリングバンクの伝統なのか…な…?)

 そして最後はツアー最初の部屋に戻って試飲でスプリングバンクのツアーは終了。
 その独特なこだわりの数々は本当に興味深い。もちろん、他の多くの蒸留所でもこだわりとプライドを持ってウイスキー造りに従事していると思いますが、生産性を求めるためにハイテクを用いたりする蒸留所も少なくない中で、伝統的な製法を守り続けている蒸留所というのはとても魅力的です。モルトを取り巻く新しい潮流の中で、「ロングロウ」や「ヘーゼルバーン」という新しいブランドを作り出すことが、スプリングバンク蒸留所としてのアンサーだったのではないかと思います。
 さぁ、スプリングバンクの魅力は蒸留所を跨いでまだまだ続きますよ!

#Springbank

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