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092. アードベッグ / Ardbeg(フェス編)

2012.06.02

 まさにウイスキー漬けの1週間が飛ぶように過ぎ去っていき、この日は遂にアイラフェス最終日。アードベッグのオープンデイ、つまりアードベッグ・デイを迎えます。

 この日も例の朝一のポストバスに乗ってアードベッグへ。
 普段ならそんなに混み合うことも無いこの時間帯のポストバスも、今日はアードベッグ・デイ。ポートシャーロットで乗り込んだ時点では私一人でしたが、道を進むに連れ乗客がどんどん乗ってきます。中には、ラガヴーリンで事務をしているという地元の女のコや、日本にも来たことあるというウイスキー狂いのおっちゃんなんかもいて、朝一からなんとも賑やかな車内でした。
 おっちゃんの話に出てくるのはなんとも高価なボトルばかり。そうとう自慢げな様子で「あのボトルは3本も持ってるぜ!ぐはは!」みたいに笑っており、おのれ金持ちめ。やはりウイスキーフェスは金持ちのものなのだろうか、という気分に陥りながらも「えー、うらやましいー(棒)」というようなリアクションをして、おっちゃんの笑顔を曇らせたりしていた。

 そんなこんなでアードベッグに到着したのは9時前。
 キルホーマンで、この旅初のボトルを購入してしまったことをきっかけに、折角だからアードベッグでもフェスボトル買お!というモチベーションがあがっていたので、10時のオープンを待たずしてやってきたわけだが、意外にも所内にいるのはまだ10数名といったところ。
 キルホーマンではぎっちぎちだったのにな?と思いつつ、10時のオープンまで時間を潰します。

(アードベッグ・デイ!!)

(今日もいい天気!)

 しばらくふらふらと所内を回っていたが、大抵はこの間見学をした際に回りきっている。結局ビジターセンター入り口前にある椅子に腰をかけていると、オープン15分前ほどに、中から元気のいいおばちゃんが出てきて「みんなー!?フェスボトル買うのー?こっちに並んでー!」と、とてもフランクな感じで列を誘導し始める。
 周りで所在なげにしていた人たちが、その声に従ってぞろぞろと列をなしていく。私も同じように列に加わります。

 ほどなくオープンし、順番にボトルが渡されていく。支払いがカードか現金かで列が2列になっており、当然現金払いの列の方がさくさく進んでいく。スタッフの人も「キャッシュの人はこっちに並んでー!早いよー!」と声を張り上げている。
 大人しくカードの列に並んでいると、すでにボトルを購入を終えた人がほくほく顔でショップを出て行く。私もにまにま顔でそれらを眺めていたのだが、ふと、それらのボトルが一切箱に入っていないことに気付く。
 どうやらボトルは裸で渡されるようで、箱などは無いようなのだ。うむむ。これは困った。流石に裸のボトルを持ってバックパッカーするわけにも行かない。と、悩んでいるうちに列は私の番になり、あわあわしながらも会計。その時に「なにか箱くれます?」と訊いてみると、例の元気一杯のおばちゃん。「オーケー、これでも使いなさい!」と、梱包材のプチプチをロールから大量に切り取ると、ぐるぐるーっと私の首にそいつを巻き付けてにっこり笑ってくる。
 先ほどから、元気一杯にお客さんの対応をしているこちらのおばちゃんこそ、2013年のアイコンズ・オブ・ウイスキーで「グローバル・アイコン・ビジターセンターマネージャー」を獲得したジャッキー・トンプソンさん。
 この時は、まだその賞は受賞していなかったのだけれど、その気安い接客とチャーミングな笑顔は、なるほどとても魅力的な方でした。
(参照:http://www.scotchmaltwhisky.co.uk/ardbegworldwhiskyawards2013.htm)
 
 はてさて。ジャッキーさんの素敵な対応に心を奪われてしまったのはいいのですが、梱包材のプチプチだけではやはり不安。なんとか箱もらえないかなー、とふらふらしていると、ちょうど隅っこで段ボールを片付けているおっちゃんがいたので、フェスボトルを見せながら「なにか箱くれない?」と。「フェスボトルの箱は無いよ」「なにか他のボトルの箱でもいいから!」とわがままを言ったら「オーケー」と、すぐそばにあったTENの箱を手に取って、中からボトルを取り出すと、その箱をくれた。おっちゃんありがとう。こういう交渉もできるようになった自分を褒めてあげたい。

 そんなこんなでボトルも無事ゲット!さてこれからどうしようかなー、としばらく海を眺めていると、なにやら広場のほうがざわざわしはじめる。
 なにやらセレモニーが始まる様子で、広場には各国の旗を持った人がいつのまにやらたくさん集まっていた。

(いつの間にやら人がこんなにたくさん!)

 この年はロンドンオリンピックの年。開催を1カ月後に控えたアードベッグでは、アードベッグ・デイのオープニングセレモニーをオリンピックとかけて「アイレイピック」と名付けて、まさしくオリンピックの開会式さながらに各国の人々がパレードをやるというのだ。
 なにそれ楽しそう!と、のこのこ広場にやってきた私の耳に、ちょうどよく「ジャパーン!エニワンジャパーン!」と日本国旗を掲げているスタッフさんの姿が!
 これは!はいはいはいはいはい!みたいな感じで近寄っていて、国旗を受け取る。これがオリンピックなら、私はいわば日本代表。しかも旗手である。そんなに目立ちたがりなわけでもないが、テンションは否応無くあがっていく。
 にっこにこ顔で国旗を掲げている私をみて、他の国方たちも楽しそうに挨拶をしてきてくれる。いいものである。
 やがて、全ての旗を配り終えたスタッフさんが「みんなそれぞれの国旗のもとに集まってー!」みたいにアナウンスしたので、私も「日本人集めよう!」と旗をばったばった振ってみるのだが、待てど暮らせど日本人なんて集まりやしない。
 初めは「ははぁ。みんなシャイだからこういうイベントには参加したがらないんだな」と思っていたのだが、どうもホントに日本人は私だけの様子。今日は最終日だし、いままでアイラで会った日本人の方ももう帰ったのだろうか…。そう思うと、今まで楽しげに振っていた旗が一気に重くなる。意気消沈である。
 隣のオーストラリア人が「あれ?日本人は君だけか?」なんて話しかけてくれたりしたけど、最早私には力無く笑うことしか出来ない。
 
 そんな私の虚しさを慮ること無く、パレードはスタート。みな旗を振り振り所内を一周するのである。

(もちろん楽しみましたけどね)

 パレードが終了すると、みな三々五々に散っていく。ボトル購入の列に並ぶ人もあれば、ツアー参加の申し込みをする人もいる。しかし、私はすでにどちらも終えてしまっているのである。
 結局、所内の芝生に腰掛けてしばしのんびり。なんだかんだで時刻は昼の12時に迫っていることもあって、あちこちにフードの屋台も出ており、そういえばまだアイラでやっていないことがあった!とその内の一つに近づいていきます。

(そう!アイラオイスター!)

 元々、牡蠣はあまり得意ではない私。これまでもちょくちょく見かけることのあったアイラオイスターでしたが、イマイチ手を出すことが出来ずにいたのです。
 しかし、ここであったが百年目。ここは一つ腹をくくろうじゃないか、と思い切って一個だけ注文。脇にあったTENはセルフサービスでかけ放題だったので、一個の牡蠣にどばっとかけて、するっと。これがまたなかなかいけた!ウイスキーのおかげか、私の苦手な潮臭さ殆ど無く、思わず「もう一個くらいいっちゃおうかしら」と思ってしまうほど。いかなかったけど。
 
 これでオイスターも食べたし、いよいよアイラで思い残すことはもうないかな!という感じで、芝生に腰掛けていると、目の前を見慣れた男性が通過。ラフロイグで働いているという日本人の彼だ!
 「なんだもーいたならさっき旗振ってる時に来てよー」など軽口を叩くも、なんでも彼はいま到着したばかりだそうで「旗?」と要領を得ない。まぁよい。彼も一人だったので、なかば強引に話し込む。
 なぜアイラに来たのか。どういう経緯でラフロイグで働かせてもらっているのか、なんて質問から日本での仕事や、私のこれまでの蒸留所巡りの旅の話など、話はつきない。

(広場ではアードベッグ・デイのマグナムボトルを持ったおねーちゃんがみんなのグラスに中身を注ぎ続けていた。せっかくボトルを買ったのに、なんとなく損した気分…)

 試飲のグラスはいくらでも貰えるし、もともとウイスキーが好きでここまで来た二人。話は尽きずに時間は過ぎていきます。

(昼間から青空の下で飲むウイスキーは最高!正面のステージではロックが演奏されており、ブランドイメージにあったフェスでした)

 話を聞くと、彼はアイラを離れたあと、しばらくはグラスゴーで暮らそうと思っているとのこと。私も5日後にはグラスゴーに行く予定だったので「その時にまた!」と言って彼とは別れる。

 一週間に渡って繰り広げられた宴が、終わろうとしている。
 

#Ardbeg

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