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アビンジャラク蒸留所へ

2012.05.16

 さて。こちらをご覧のみなさまには、私がなぜアウターヘブリディーズ、ヴァイキング語で「この世の果て」を意味する島まで辿り着いたのかは察してらっしゃるでしょう。
 目指すは2008年にオープンしたばかりのスコットランド最西端蒸留所、アビンジャラクです。
 しかし、こちらの蒸留所。所在地が「この世の果て」のさらに最果てにあるということで、行くのさえ一筋縄では行きません。
 まずはこちらの地図をご覧下さい。

 ルイス島の東端にあるのがアウターヘブリディーズ最大の街で、私がホステルをとって拠点としているストーノウェイ。そして、そこからほぼ島を横断した西側にあるのが目的のアビンジャラク蒸留所です。
 距離にしておよそ35マイル、55キロ強もの距離で、如何に私が歩く旅をしているとはいえ、この距離はさすがに歩ききれない。さらに、バスなどの公共交通機関を調べてみても一向に出てこない。こちらは地図を見てもらえば分かると思うのだが、単純に道が無いのだ。オレンジ色の幹線道路から遠く離れていることはこちらの地図でも確認できると思うが、もっとズームによって行っても途中で道が途切れている。さすがに道がないなんてことはないだろうけど、その道が狭すぎてバスなんかは通っていないのかもしれない。
 バスも無く、徒歩では無理。となるとそこまでどういう手段があるかと考えた時に、私が抱いていたのが、激甘のヒッチハイクプランである。
 いままでこの旅では幾度となくヒッチハイクで地元の方のお世話になっており、その気安さからだいぶヒッチハイクというものに関しての認識も緩んできており、となると、まず幹線道路沿いをなるべく行ける所まで西進するバスに乗る。幸い、ストーノウェイとアビンジャラクを直線で結んだちょうど中間らへんには、この島の数少ない観光スポットであるカラニッシュというスタンディングストーンがあり、ストーノウェイからそのカラニッシュまではバスが出ていることが、手許の地球の歩き方先生にも書かれている。
 カラニッシュ辺りまでバスで行ければ、そこからはなんとかヒッチハイクをしてアビンジャラクまで到着しよう。帰りは蒸留所の人に送ってもらおう。と、とんでもなく甘いプランを立てていたのである。

 さて。そんなプランを描きつつも、とりあえず情報は仕入れておこうと、ストーノウェイのインフォメーションセンターに顔を出します。


(ストーノウェイの街並は明るく、とても「世界の果て」とは思えなかった)

 インフォメーションセンターで「地図ちょーだーい」と言って島の地図をもらい、眺める。
 何も無い島だから、新興の蒸留所とはいえ島の地図くらいには載っているかなーと期待していたのだが、残念ながらもらった地図には蒸留所は記載されていない。うむむ困った、と地図を見つめながら固まってしまった私の様子を見て、インフォメーションセンターのお兄ちゃんが「どこに行きたいんだ?」と声をかけてくれる。「蒸留所に行きたいんだけど」と言うと「蒸留所はここだよ」と地図上にぐりぐりとペンで印を付けてくれ「車で?バスで?」と訊ねてくる。「バスで」と答えると「OK。じゃあタイムテーブル出すね」とするする〜っと話が進み、なんとアビンジャラク蒸留所までバスが出ているという事実が発覚。もらったタイムテーブルを片手に小躍りしていたのも束の間、行きのバスは問題ないのだが、帰りのバスは「リクエストストップだ」と言われてしまう。
 「リクエストストップ?」なんじゃらほい状態で話を詳しく聞くと、どうやらそのルート、平生はバスが通っていないらしく、事前に乗る人がいると分かっているときだけ、そのルートをバスが通ってくれるのだという。つまりはバスの予約。話を聞くと、予約はバスステーションで出来る、とのことだったので、お礼を言ってバスステーションへ。

 バスステーションの待合室みたいなところにある受付に、さきほどプリントアウトしてもらったタイムテーブルを見せ「このバスを予約したいのだけど」と告げたのだが、受付のおばちゃんは「この番号に電話して確認して」と冷たい。「電話持ってないんだ」と言っても「そんなもんしらんがな」といった態度でにべもなく、あまりの態度に半べそをかきながら、どうしたものかと思案。
 行きはバスがあることが分かったんだから、帰りはそれこそヒッチハイクでもいいんじゃないか?など甘ったれた考えが頭をよぎったが、せっかくなので帰りもこのリクエストストップを利用したほうがより確実である。
 こんな時に頼れるのはやはり旅人の強い味方、インフォメーションセンターである。
 とんぼ返りでさきほどタイムテーブルを出してくれたお兄ちゃんに泣きつき「バスステーションに行ったけど無理だった」「電話持ってないし英語できないから不安」みたいなことを訴えると、困ったような顔をしながらも「OK〜」と電話をしてくれて「いまこっちにジャパニーズのジェントルマンがいるんだけど英語不得意みたいだから俺が代わりに電話してるんだ。明日のバスを予約したいんだ」みたいなことを全部やってくれ、電話を切ると「ノープロブレム」と笑ってくれた。もうマジカッコいい。ホントに頼れる。インフォメーションセンターは。

 そんなこんなで最後は「何時何分にショップの近くでバスが君を拾うから」と時刻と「by shop」とタイムテーブルに書いてくれ、とりあえず安心。
 「by shop」っていうのがアバウトすぎて不安は募るばかりだが、少なくともお兄ちゃんが予約してくれたのは間違いないはず。この日はなんとか蒸留所まで確実に行くルートを開拓できたのでよしとして、パブで酒を飲みホステルへ。

#Abhainn Dearg

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