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112.ブラドノック / Bladnoch

2012.06.12

 この日は、ローランドはスコットランド最南端の蒸留所、ブラドノックへ向かいます。久しぶりのB&Bでの宿泊で、気付けば2ヶ月半をかけて巡ってきたスコットランド一周の旅でも最後のスコティッシュブレックファーストである。これから「この旅最後の○○」みたいなものもどんどん増えていくだろうなー、など少しく感傷に浸りつつ、スコットランド最後のB&Bをチェックアウトし、向かうはこの旅最後のスコットランドの蒸留所、ブラドノックである。

 この日、宿を取っていたウィグタウンは本屋の町としても有名らしく、とてもこぢんまりとしているが、明るく、気持ちの良い町だった。町の規模としてはテインと同じくらいだろうか?遡ること二ヶ月近く前、テインに着いた時は「小っちゃい町だなー。なんもないやんけー」くらいに思っていたのだが、今では、このくらいの規模の町にも慣れ、むしろ居心地いいくらい。
 ブラドノック蒸留所は宿から25分ほど歩いた場所にあるとのことなので、荷物を担いでてくてく歩きます。


(ウィグタウンから坂道を下り、住宅街を抜けた先にパゴダ屋根のある蒸留所が見えてきます)

 こちらはツアーもやっているビジターウェルカムな蒸留所。一番早い時間のツアーが10時からだったのでそれに合わせて到着し、朝一のツアーを申し込みします。見学のみのツアーが3£。3テイスティングがついて5£とのことだったので、ここは後者で。朝から蒸留所見学とテイスティングまで出来るなんてわくわくです。

 ツアーの時間までビジターセンターをふらふら。至る所にタータンチェックがあしらわれた、きれいで可愛らしいビジターセンターで、ツアーまでの待ち時間も退屈しない。ほどなく、ガイドさんが現れて、ツアーに出発です。

 ブラドノックはスコットランドでも数少ない独立資本の蒸留所。創業自体は1817年と古いが、その他多くの蒸留所がそうであったように、ウイスキー事業は順風満帆とはいかず、何度となく閉鎖やオーナーの変遷を経ております。直近では、当時のオーナーだったベル社が1993年に閉鎖を決め、ブラドノックの歴史もここまで、すわ建物も取り壊しかという危機に直面したのですが、その危機を救ったのが現オーナーのレイモンドさん。94年に買収してから、契約の関係でしばらくは蒸留を再開できずにいたが、2000年には生産も再開し、以後細々とですが、数少ないローランドモルトの火を灯し続けておりました。
 が、2014年。またも売却話が持ち上がっており、現在は生産も止まっており、ツアーもやっていない状態とのこと。ブラドノック蒸留所のオフィシャルHPにも「The saddest bit of news I've had to report」として、告知されておりますが、今後どうなるかは不透明とのこと。。このまま閉鎖蒸留所の仲間入りをしてしまうのは、あまりに悲しいです。。

 それはそうと当時はまだそんな話まったく知らない状態。若いおねーちゃんガイドさんに連れられて、見学スタートです。

 こちらのガイドさん。今までのツアーガイドさんのなかでも特に若いおねーちゃんで、世間話的に「ウイスキーは好き?」と訊いてみたら「私はまだウイスキー飲める年齢じゃないの」と言っていた。若い。。!
 そんな若いコだからか、私の英語力の無さを慮ってくれる気配もなく、わりとずっかずか進んでいってしまう。たまに「質問は?」みたいにふってくれるので、私も「あれはどーなの?これはどーなの?なんでこーなってんの?」みたいに訊ねるのだけれど、それに対しては「んー、分からないわ」と肩をすくめて困った顔をするだけ。私も苦笑いをしながら、相手も英語の分からない東洋人に困った顔で、妙に困った二人だけのツアーはさくさく進みます。

(スチルは最小の2基。手前が初留釜、奥が再留釜です)

 ブラドノックは、当時でも1年のうち1,2ヶ月のみしか生産を行っておらず、私が訪れたときもスチルハウスは静まり返ったままだった。

(小窓から差し込む光が柔らかなスチルハウス)

(スピリットセーフもぴかぴか)

 若いガイドさんの奔放さに臆してか、ブラドノック蒸留所の写真はあまり残っていない。
 ウェアハウスをさささーっと通り過ぎると、ボトリンク工程へ移ります。

(ラベル張りはなんと手作業!おねーさんが一枚一枚のりで張り付けていきます)

(右の女のコがガイドさん。可愛い)

 ブラドノックは小規模ながらボトリングまでやっている数少ない蒸留所。部屋の片隅にはボトルに詰める機械なんかもあって、なかなか珍しいものを見ることが出来た。

 ボトリング作業を眺めながらしばし立ち話をしていると、向こうからにこやかにおっちゃんがやってきて「どーだい、このコのガイドはちゃんとしてたかい?」みたいに話しかけてくる。「いえーす。とても興味深いプリティーな蒸留所だね」みたいに適当な返しをすると「ハハハ。まぁゆっくり見ていってくれよ」と、私の肩に優しく触れて去っていく。なんじゃらほい、と思っていると、ガイドのコが「あれがうちのオーナーよ」と。完全に従業員のおっちゃんが、仕事の合間にツアー客にちょっかいを出しにきたのかと思ってた。下手なことを言わんでよかったな。

(蒸留所のすぐ裏手を流れるブラドノック川。仕込み水としても使用されている)

 そんなこんなでさくさくーっとツアーを終え、ビジターセンターに戻って試飲。

(たくさん並んだブラドノックのボトル。ツアー内容だと「3 drams」ってことだったけど、そんなの関係なくいくらでも試させてくれた)

 試飲をしながらビジターセンターをふらふらしていると、先ほどのおっちゃん改め、オーナーのレイモンドさんがやってきて、再び挨拶。私が日本からやってきたと知ると「ちょっと待ってて」と奥からウイスキーマガジンを持ってきて「このページを訳してくれよ」と、ブラドノックのボトルを紹介したページを開いて私に見せてくる。
 そんなこと言われても、思いながらも、出来る範囲で書いてある内容を英訳し、カタコトの英語で伝えると、レイモンドさんもある程度は察しがついたのか「サンキュー」とお礼を言ってくれ、お返しにと言わんばかりに、またボトルがたくさん出てくる。

(ブラドノックフォーラムのグレーンなんかも試させてくれた。レイモンドさんは自分の蒸留所のボトルだけでなく、他の蒸留所からも樽を買い取って自分のところで詰める、というボトラーズブランドも立ち上げている)

 そんなこんなしながられレイモンドさんと世間話。「3ヶ月かけてスコットランドの蒸留所巡りをしているんだ!4月の頭からスタートして、今日まで、スコットランド中の蒸留所をまわってきて、ここが最後の蒸留所なんだ」と言うと「ならもう全て分かるだろう。私が客をやるから、君が解説をしてくれ」と、私をガイドボードの前に立たせると、自分はどっかと腰を下ろしてしまう。
 おろおろしながらも、「オーケー。ウイスキーを作るには何が必要か知ってる?モルテッドバーレイ、イースト、ウォーターね。分かる?」みたいに語り始めた私ですが、そんな悪ふざけも長くは出来ない。すぐにアイキャントエニモアですよ、みたいにお手上げすると、レイモンドさんは微笑みながらも、スチルのネックの角度や加熱方法によって味がどう変わるのか、私の求める酒質はどのようにして得られるのか、という話をとても丁寧に解説してくれた。

 そうしてとても有意義な時間を過ごすことが出来た。途中、通りかかった奥さんを紹介してくれたり、息子さんを呼んできて紹介してくれたりと、とてもアットホームな雰囲気。レイモンドさんの息子さんのマーティンさんは、ボトラーズブランド「ウイスキーブローカー」の代表でもあり、わざわざお名刺までくださって挨拶してくれた。
 その後も「そういえば日本からメールが来てたな」と、某インポーターさんから着ていたオリジナルボトル依頼のメールなんかについて「どう思う?」みたいに私の意見を聞いてきたりして、そんなの部外者に知らせていいのかよ。。と思いつつも、とても楽しいひとときを過ごすことが出来ました。

 最後にはミニボトルまでプレゼントしてくれて、もう大満足。ツアー自体はあっさりとしたものでしたが、それでも、間違いなく今回の旅で一番印象に残った蒸留所の一つ。最後にはレイモンドさんと握手をして「必ず、絶対また来るからね!アイルビーバック、サムタイム!」とアツく伝えて手を振ります。あれからもう3年近くが経とうとしてますが、まだ、その時の約束は果たせていません。ホントにこのまま失われてしまう蒸留所にするのはもったいない。なんとかならないものでしょうか。

 大きな満足と、「これでスコットランド蒸留所巡りも終わりか」という一抹の寂しさを胸に抱きながら、バスに揺られて、北アイルランド行きのフェリー乗り場を目指すのでした。

#Bladnoch

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